街々書林の今月の旅する1冊

吉祥寺中道通りに位置する「街々書林 Books & Gallery」の店主であり、旅に関する本を執筆してきた「旅行作家」でもある、小柳淳さんによる月イチの連載コラムです。本の世界の「旅」を、どうぞお楽しみください。
「海の民」の日本神話 古代ヤポネシア表通りをゆく 〜街々書林の今月の旅する1冊
「週刊きちじょうじ」と「週刊きちじょうじオンライン」で毎月第1週にお届けしている「街々書林の今月の旅する1冊」。 「街々書林 Books & Gallery」は、旅にまつわる本や雑誌、雑貨を販売しているユニークな書店。吉祥寺中道通りに位置しています。街々書林の店主であり旅に関する本を執筆してきた「旅行作家」でもある、小柳淳さんによる月イチの連載コラム、本の世界の「旅」をどうぞお楽しみください。

「海の民」の日本神話 古代ヤポネシア表通りをゆく

「海の民」の日本神話 古代ヤポネシア表通りをゆく
三浦佑之 著
新潮選書
価格 1,595円
発売日 2021年9月24日
ページ数 256ページ
書籍詳細
越の国の姫川流域、いまの新潟県糸魚川あたりは、フォッサマグナという地質構造による東西日本の巨大な境目が通り、ヒスイ(翡翠)の産地でもあります。ヒスイは宝石として古代から相当広い範囲に流通していたといいます。この地域にはヌナガワヒメ(沼河比売)と、遥か西方の出雲のヤチホコ(八千矛神)との求婚神話が伝わっていますし、姫川をさかのぼった安曇野や諏訪地方にも出雲や北九州筑紫との交流の痕跡があります。ヤマトの王権が中央集権国家をつくる前の列島は各地に独立した豪族がいて、海や河川を介しある程度離れた地域相互間のネットワークが多彩だったようです。

この本は北九州から山陰、北陸・能登に至る日本海沿岸の交流圏を古事記、風土記、万葉集などを読み解いて浮かび上がらせます。各地に勢力を持っていた豪族は徐々にヤマト政権に制圧されてゆきます。飛鳥・大和の朝廷が成立すると、奈良地方を中心とした陸の道が整備され、交通は陸上が主となって現在までその流れが続いています。そしてこうしたプロセスから、地方相互間の交通よりも中央と地方を結ぶ交通が主となるだけでなく、地方相互の交通・交流が阻害された面もあるようなのです。神話や物語のなかには、地方ごとの自立した暮らしのかけらが少し見られたりもします。中央からの視点ばかりでない、日本各地の歴史と文化を感じることも大切な気がしてきます。
