アンジェリカで映画の話を

アンジェリカで映画の話を

毎月第2週にお届けする「カフェ&ワインバル ANGELIKA(アンジェリカ)」共同オーナーの髙田和子さんによるコラムです。コラムを担当する髙田さんはANGELIKAと平行して、現在も映画関連のお仕事をされています。映画愛がつまった月イチの連載コラム、どうぞお楽しみください。

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「週刊きちじょうじ」と「週刊きちじょうじオンライン」で毎月第2週にお届けする「ANGELIKAで映画の話を」。「カフェ&ワインバル ANGELIKA(アンジェリカ)」共同オーナーの髙田和子さんによるコラムです。

ANGELIKAは吉祥寺・中道通り近くに位置するこだわりのコーヒーとワイン、エッグタルトを提供するお店。コラムを担当する髙田さんはANGELIKAと平行して、現在も映画関連のお仕事をされています。映画愛がつまった月イチの連載コラム、どうぞお楽しみください。

『サブスタンス』

忘れるな。あなたは一人なのだ。

『サブスタンス』
監督:コラリー・ファルジャ
2024年/イギリス・フランス
出演:デミ・ムーア、マーガレット・クアリー、デニス・クエイド
吉祥寺オデヲン他全国公開中
公式ウェブサイト

とんでもない映画です! ストーリーもビジュアルも演技も、強烈でグロテスク。手放しに薦めるのは戸惑うけれど、観たことを話さずにはいられません。

かつてのスター女優が、クローン技術“サブスタンス”に手を出してしまい、若さと美貌を取り戻したもう一人の自分の存在によって破滅していく様が描かれます。人は、若さなり成功なり何かを強く求めると、自分の中の執念や欲望に翻弄され苦しむことになると思い知らされる、残酷な映画です。

でもこの映画、愛おしくもなってきます。それはきっと、監督がヒロインの強さと脆さを愛情込めて描いているから。この映画の男たちが誰ひとり個性も魅力もないことが重要な対比です。冒頭シーンの、ハリウッド・ウォーク・オブ・フェームの星が伏線となってラストシーンに繋がるのも見事。女優なら尻込みするはずの役で新境地を開いたデミ・ムーアが、数々の賞に輝きました。

『サブスタンス』 2024年/イギリス・フランス/監督:コラリー・ファルジャ/出演:デミ・ムーア、マーガレット・クアリー、デニス・クエイド 配給:ギャガ ©2024 UNIVERSAL STUDIOS 吉祥寺オデヲン他全国公開中

『サブスタンス』を観たあとは、この映画がおすすめ!『ザ・フライ』

ザ・フライ
監督:デヴィッド・クローネンバーグ
1986年/アメリカ
出演:ジェフ・ゴールドブラム、ジーナ・デイヴィス、ジョン・ゲッツ

『サブスタンス』の公開をきっかけに、人間の身体が変容する“ボディ・ホラー”というジャンルが注目されています。このジャンルを確立した監督といえば鬼才デヴィッド・クローネンバーグ。彼の最大のヒット作が『ザ・フライ』です。

身体が変わっていく視覚的な恐怖と同時に、主人公の心理的恐怖も描いているのがボディ・ホラーの特徴。『ザ・フライ』では、物質転送実験をする科学者が、装置に紛れ込んだハエと融合してしまい、次第に意識も変わっていきます。

そしてこの映画には、恋愛要素も重厚に描かれています。ハエ化していく自分の姿を見せたくなくて恋人を拒絶した科学者と、動揺して彼のもとから去った恋人との再会シーンは、切なくて胸を打ちます。身体がハエになっても、意識は自分のまま保とうと葛藤し、それが不可能だと悟った時、彼女を愛するあまり科学者は驚きの行動に。当時、実生活でも恋人同士だったジェフ・ゴールドブラムとジーナ・デイヴィスが迫真の演技を見せてくれます。

勿論最大の見どころは、人間が次第にハエになっていく過程の恐ろしさと、ハエ人間の造形のグロテスクさ! 1986年は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』が大ヒットした年。年末に『トップガン』の公開が始まり、日本でもトム・クルーズが大ブレイクを果たした中で本作が公開されたことを考えると、『ザ・フライ』のインパクトは、相当異質で強烈だったことがわかりますね。