街々書林の今月の旅する1冊

街々書林の今月の旅する1冊

吉祥寺中道通りに位置する「街々書林 Books & Gallery」の店主であり、旅に関する本を執筆してきた「旅行作家」でもある、小柳淳さんによる月イチの連載コラムです。本の世界の「旅」を、どうぞお楽しみください。

シリーズ一覧

正倉院のしごと 宝物を守り伝える舞台裏 〜街々書林の今月の旅する1冊

「週刊きちじょうじ」と「週刊きちじょうじオンライン」で毎月第1週にお届けしている「街々書林の今月の旅する1冊」。 「街々書林 Books & Gallery」は、旅にまつわる本や雑誌、雑貨を販売しているユニークな書店。吉祥寺中道通りに位置しています。街々書林の店主であり旅に関する本を執筆してきた「旅行作家」でもある、小柳淳さんによる月イチの連載コラム、本の世界の「旅」をどうぞお楽しみください。

正倉院のしごと 宝物を守り伝える舞台裏

正倉院のしごと 宝物を守り伝える舞台裏
西川明彦 著
中央公論新社
価格:990円
発売日:2023年3月22日
ページ数:240ページ
書籍詳細

毎年10月下旬から11月にかけて奈良で開催される正倉院展では、1300年前の宝物の姿を見ることができます。奈良時代に光明皇后から東大寺へ献納された、聖武天皇遺愛品を中心とした宝物を保存するために建てられた東大寺正倉が、今に正倉院として伝わっています。

奈良東大寺境内にある正倉院。この建物は国宝(撮影=小柳淳)

これほどまで多数の古代遺物が土中からの発掘ではなく、建物に保存され人の手によって丁寧に管理保管されてきたということは世界的にみて稀有なことなのだといいます。この本は長く宮内庁正倉院事務所に勤務した専門家による、正倉院の制度運用と宝物の保存、修理、再現模造、公開が丁寧に淡々と説明されます。ひとことで1300年と書いてしまいますが、動物性繊維の絹製のものは理論値としては800年くらいで崩壊して粉々になるというのです。長期にわたる丁寧な管理によって奇跡的に現在まで姿をとどめている絹もあります。

ところで、天平のエキゾチックなデザインを目にして、唐、西域やペルシャ伝来のものと感じますが、実は95%が奈良時代に国内で作られたものです。さらにいうと、正倉院建物は国宝ですが、9,000点もの宝物は国宝指定がありません。それは宝物の価値の問題ではなく、保護保存に関する法制度や管理方法と関連の中で決まってきたことのようです。

平城京大内裏跡に再建された大極殿。天平人がここを歩いていたのだろう(撮影=小柳淳)

街々書林 Books & Gallery

2023年6月、吉祥寺の中道通りにオープンした書店。「旅する本屋」を掲げ、旅に関する本や雑誌、雑貨を販売。店内奥には貸ギャラリーも。