吉祥寺で65周年を迎えた「ファンキー」がリニューアル!名機パラゴンが息づく、ジャズの“小劇場”

リニューアルしたファンキーにて。今回お話をうかがった野口満理子さん(中央)とスタッフの皆さん

吉祥寺のジャズバーといえば、まず思い浮かぶのが「Funky(ファンキー)」。1960年に吉祥寺で誕生した老舗が、2025年の秋ついにリニューアルオープンしました! ファンキーは“ジャズ喫茶ブーム”の火付け役としても知られる野口伊織さん1が手がけた銘店。その名は今もなお、吉祥寺カルチャーの象徴として語り継がれています。今回は、そんなファンキーの歩みとリニューアルについて、運営を手がける株式会社 麦の野口満理子さんにお話をうかがいました。

  1. 野口伊織:1942年東京生まれ。1960年にジャズ喫茶「Funky」をプロデュースしたのを皮切りに、吉祥寺を中心にさまざまなジャンルの店舗を30軒以上手がけた。2001年、58歳で逝去する ↩︎

1960年代、70年代のファンキー黄金期

ファンキーが誕生したのは1960年。野口伊織さんのご両親が営んでいた喫茶店「ブラジル」の地下で産声をあげました。当時、モダン・ジャズに夢中だった高校生の伊織さんが「自分のお店を開きたい」と提案し、両親が運営を引き受けたことがきっかけです。ジャズ雑誌の編集長に300枚のレコードを選んでもらうなど、多くの人の協力を得てスタートしたといいます。

最初期のファンキーの写真。場所は現在の吉祥寺PARCOのあたり

野口さん「お客さんがリクエストしたレコードを大音量で楽しむ空間だったそうです。『新しいレコードが入ったらしい』と聞けば、マスターたちがレコード店へ買いに走る。それをいち早く自分の店でかけるんです。『ファンキーにあの盤があるらしい』と聞きつけて、お客さんが集まってくる時代でした。ファンキーのほかにも、ジャズ喫茶メグなどもありましたね。」

当時はまだ自宅で高品質なオーディオを楽しめる人が少なかった時代。質の高い音で大音量のジャズを聴けること自体が特別な体験でした。ファンキーの人気は瞬く間に広がり、1966年には3階建ての店舗へと拡張。「各階ごとに違うオーディオを置いて、それぞれの雰囲気に合ったジャズを楽しめたんです」と野口さんは話します。

地下1階、1階、2階の3フロアで異なる音を楽しめた、まさにジャズ黄金時代

そのとき制作されたのが、このチラシ。“脅威のスピーカーシステム”というキャッチコピーとともに、スピーカーの名機「JBL パラゴン」を大々的に打ち出しています。

「家具みたいに綺麗ですよね」と野口さん

地下にあった当時のファンキーは、作家・倉橋由美子さんの小説『暗い旅』にも登場します。「暗い、海獣の口中のような窖(あなぐら)、炭酸ガスの多い空気、それを攪拌する強い振動……」と描かれたその場所で、倉橋さん自身が小説を書いていたのだとか。

「野口伊織がそう言っていましたので、間違いないと思います」と野口さんが微笑みます。

当時の大学生がよく読んでいたという、倉橋由美子さんの小説
「地下の《ファンキィ》への狭い階段をおりる。」の一文も

ジャズ黄金期のその後 ファンキー洋菓子店時代

時代が進むと、レコードが自由に買えるようになり、自宅で音楽を楽しむ人が増えました。「レコードを楽しむだけのジャズ喫茶が成り立たなくなっていったんです」と野口さん。吉祥寺PARCOの建設に伴い、ファンキーは現在の場所へ移転しました。

野口さん「野口伊織という人はビックリするようなことをやる人で(笑)。移転後のファンキーはなんと“洋菓子カフェ”になったんです。」

その大胆な変化に、当時のジャズファンたちは驚きを隠せなかったそう。ジャズをBGMに、ケーキやサンドイッチを提供するお店として1970年から23年間、ファンキーは“洋菓子カフェ”として新たな時代を歩みました。

ロゴも内装も、今とは異なる趣を感じさせる当時のファンキー。のちに系列店「レモンドロップ」へとつながっていきます

そして1993年。「自分が間違っていた。やっぱりジャズに戻す」と、伊織さんは再び初心に立ち返ります。和食店・Maruに眠っていた名機パラゴンを戻し、“ジャズバー&キッチン”として再出発。ここまでが、ファンキーの今までの物語。そして2025年、野口伊織さんのエッセンスを詰め込んだ“新生ファンキー”が、いよいよ幕を開けます。

新生ファンキー、こだわりの注目ポイント!

野口伊織さんの店づくりには、いつも“驚き”があったといいます。今回のリニューアルにも、そんな遊び心とこだわりがたっぷり。そんな新生ファンキーのこだわりをご紹介します!

先日惜しまれつつ閉店した系列店「アウトバック」の店長だった菅野さんが、再び店長としてバーを担当

注目ポイント その1 名機パラゴンを中心とした“劇場”

店長の菅野さんによると、パラゴンの接続はオーディオの専門家に依頼しておこなったそう

野口さん「これまでもファンキーの主役はパラゴンでしたが、今回はなんとカウンターの中に設置しました。お客様がパラゴンと“向き合って”お酒を楽しめるようになっているんです。いわば“小さな劇場”のような空間ですね。」

注目ポイント その2 音楽に寄り添う、こだわりの味

ファンキーではお酒だけでなく、料理にもとことんこだわっています。なかでも看板メニューは、試行錯誤を重ねてたどり着いたという、自慢のビーフシチュー。ステーキのようなお肉とバターライスをソースと一緒に合わせれば、思わず笑みがこぼれるおいしさ!
カフェタイムには、ハンドドリップで丁寧に淹れたコーヒーとともに、系列店「檸檬雫」のチーズケーキやレモンパイも楽しめます。

「この味しかない」と胸を張るひと皿。濃厚な旨みとまろやかさが絶妙!
カフェタイムは15時から。丁寧に淹れられたハンドドリップのコーヒー(写真=Funkyインスタグラムより)

注目ポイント その3 銅板で装飾された吹きぬけ

3階の丸い吹きぬけには、かつてシャンデリアが吊るされていました。震災で落ちてしまったその照明を、今回のリニューアルで復活。周りには腐食させた銅板を貼り合わせ、ウイスキーの蒸留器“ポットスチル”を思わせるような表情に仕上げています。

天井の吹きぬけ部分。まるでクリムトの絵画のような表情、と野口さん
「ウイスキーの神様への敬意も込めて」と笑う野口さん。素敵な作家さんとの出会いがあったそう

注目ポイント その4 サロンのような椅子やソファー

店内のどこからでもパラゴンの音を感じられるよう、囲むようにレイアウトされた客席。椅子はすべて異なるデザインで、「全部同じより違う方が面白い」という伊織さんの哲学を受け継いでいます。

1973年開店の喫茶店「西洋乞食」のお店づくりがベースになっているそう!

注目ポイント その5 ストーリーが詰まった内装

以前は黒を基調としていた壁面を、内装の美しさが引き立つ色へと変更。また、来店客を迎える鉄の扉は、伊織さんと長年親交のあった「さいとう工房」さんによるものです。ほかにも、伊織さんが“ジャズに戻した”当時の看板を入口に埋め込むなど、細部にまで物語を感じられる仕上がりになっています。

吉祥寺カルチャーを受け継ぐ場所へ

趣のある看板も入口の鉄製扉と同じく、さいとう工房さんによる作品

吉祥寺の文化を語るうえで欠かせない存在、野口伊織。彼が遺したエッセンスを令和の時代に再構築したのが、今回の新生ファンキーです。リニューアルをきっかけに、伊織さんが手がけた店を愛してきた人たちとの出会いもあったそう。
「今回のリニューアルでは、野口伊織が生み出したいろんな要素をすくい上げて、拾い集めて、歴史やこだわりを散りばめた、そんな摩訶不思議な空間になっていると思います」と野口さんは笑顔で語ります。

過去と未来、音と空間、驚きとくつろぎ。それらが凝縮されたファンキーは、まさに“吉祥寺カルチャーの小劇場”。ぜひあなたも、極上のサウンド、おいしい料理とお酒、そして心地よい時間に酔いしれてみてください。

ファンキーの階段に飾られた写真

野口さんから週きち読者のみなさんへ

これまでのファンの方にも、ファンキーをはじめて知る“未来のファン”の方にも楽しんでいただけるお店を目指しました。パラゴンを主役とした“小さな劇場”のようでありながら、サロンのようにくつろげる空間になっていると思います。ジャズバーは少しハードルが高いかもと感じる方には、15時からのカフェタイムもおすすめです。丁寧に淹れたコーヒーをご用意してお待ちしています。

1階では、ファンキーの元料理長が独立してオープンした「ビストロSUZ」が営業しています