街々書林の今月の旅する1冊

街々書林の今月の旅する1冊

吉祥寺中道通りに位置する「街々書林 Books & Gallery」の店主であり、旅に関する本を執筆してきた「旅行作家」でもある、小柳淳さんによる月イチの連載コラムです。本の世界の「旅」を、どうぞお楽しみください。

シリーズ一覧

祖母姫、ロンドンへ行く! 〜街々書林の今月の旅する1冊

「週刊きちじょうじ」と「週刊きちじょうじオンライン」で毎月第1週にお届けしている「街々書林の今月の旅する1冊」。 「街々書林 Books & Gallery」は、旅にまつわる本や雑誌、雑貨を販売しているユニークな書店。吉祥寺中道通りに位置しています。街々書林の店主であり旅に関する本を執筆してきた「旅行作家」でもある、小柳淳さんによる月イチの連載コラム、本の世界の「旅」をどうぞお楽しみください。

祖母姫、ロンドンへ行く!

祖母姫、ロンドンへ行く!
椹野 道流(ふしの みちる) 著
小学館
価格:1,760円
発売日:2023年4月20日
ページ数:256ページ
書籍詳細

「一生に一度でいいからイギリスに行きたい。お姫様のような旅をしてみたい」とつぶやいた80歳過ぎの祖母。お正月に家族親戚が集った場だったこともあり、資金は叔父たちが出すことになる。そしてイギリス留学経験のある孫娘が通訳兼案内役になって、お姫様旅行が決まる。飛行機はファーストクラス、ロンドンでは五つ星高級ホテルに滞在。留学中とはけた違いなクラスの高級旅行だ。きちんと着飾ってディナーに出かけ、お昼寝休みを挟みながらもハロッズ、ロンドン塔、大英博物館など観光して巡る。ビクトリア駅から出発するオリエント急行ディナーツアーにも乗車して、まさに旅を満喫する。

ロンドン塔で祖母姫は英国王室の宝石に魅入る(撮影=小柳淳)

タダでイギリス旅行ができる、とばかりに引き受けた孫娘は高齢の祖母によく尽し、少しずつ祖母の好みを理解して訪問先や時間配分を微調整。でも、祖母の就寝後は短い夜遊びに出て、ホテルのドアマンやバトラーに「バッド・ガール」と呼ばれる。そして孫娘ではなく、お金持ち高齢者の「秘書」と誤解されるが、それがむしろ彼らとの距離を縮める。その彼らのプロフェッショナルな姿勢に助けられ、感心しながらも素敵な交流が生まれていく。自信に満ちて自己肯定感たっぷりの祖母のキリリとした姿勢と高齢者のわがままに振り回されつつも、自分と全然違うタイプの祖母を少しずつ理解し、変わっていく孫娘。お姫様旅行からかなり時を経たことで、「コムスメ」から大人になった孫娘によるエレガントな紀行エッセイが生まれた。

祖母姫は主にタクシー利用(撮影=小柳淳)