街々書林の今月の旅する1冊

街々書林の今月の旅する1冊

吉祥寺中道通りに位置する「街々書林 Books & Gallery」の店主であり、旅に関する本を執筆してきた「旅行作家」でもある、小柳淳さんによる月イチの連載コラムです。本の世界の「旅」を、どうぞお楽しみください。

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「週刊きちじょうじ」と「週刊きちじょうじオンライン」で毎月第1週にお届けしている「街々書林の今月の旅する1冊」。吉祥寺中道通りにある「街々書林 Books & Gallery」は、旅にまつわる本や雑誌、雑貨を販売しているユニークな書店です。
このコラムは、街々書林の店主であり旅に関する本を執筆してきた「旅行作家」でもある、小柳淳さんによる月イチの連載コラムです。本の世界の「旅」をどうぞお楽しみください。

メトロに乗って パリ歴史散歩

メトロに乗って パリ歴史散歩
ロラン・ドゥッチ 著/高井道夫 訳
晋遊舎
価格:2,090円
発売日:2012年9月
ページ数:479ページ

タイトルと装丁の軽やかさに反して、内容重厚なパリ2000年の歴史をしっかり語る本だ。選ばれた21のメトロ(地下鉄)の駅を起点に、街や建物・通りにちなむ出来事や事件が、紀元1世紀から21世紀までの歴史とともに21章で綴られてゆく。

石畳の街路が続くパリの市街地(撮影=小柳淳)

第1章シテ駅はパリ発祥の地シテ島だけあって、カエサルやガリアといった1世紀のことが語られる。その後、西ローマ帝国の崩壊、フランク王国の中世を経てフランス王国絶対王政へ、パリの街をあちこちメトロで訪れる。パリ市域の拡大と城壁の変遷を知り、どの都市も初期の小さな街からの拡大の歴史があるのだと気づく。章は進み、第18章バスティーユ駅からは18世紀のフランス革命勃発のバスティーユ監獄跡へと歩き、革命の嵐へと文章は展開する。そして次の第19章はナポレオンの登場。フランス軍の英雄から皇帝そして没落の生涯が、パリ市街のあちこちに刻まれている。革命に限らず、陸で国境・境界を接する大陸では、異民族や封建領主、王権の絶えざる衝突や侵入があって、パリの石畳も数多の血塗られた歴史を持つと知る。最後の第21章はシャンゼリゼ通りをまっすぐ進んだ先に先の、パリ西北に位置する超高層ビルエリアのデファンス駅だ。いままでも、エッフェル塔、ポンピドーセンターなど建設当時は新奇な建築物に批判的だったことが多いフランス人だけあって、抑制は利いてはいるが厳しい視線を感じる。現代パリの美しい市街を思い浮かべながら、そこここが数多の歴史事件の舞台であったと知ることができる。手許にパリ市街図を置いて読みたい。

高層ビル街デファンスからパリ中心部を望む(撮影=小柳淳)