アンジェリカで映画の話を

アンジェリカで映画の話を

毎月第2週にお届けする「カフェ&ワインバル ANGELIKA(アンジェリカ)」共同オーナーの髙田和子さんによるコラムです。コラムを担当する髙田さんはANGELIKAと平行して、現在も映画関連のお仕事をされています。映画愛がつまった月イチの連載コラム、どうぞお楽しみください。

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「週刊きちじょうじ」と「週刊きちじょうじオンライン」で毎月第2週にお届けする「ANGELIKAで映画の話を」。「カフェ&ワインバル ANGELIKA(アンジェリカ)」共同オーナーの髙田和子さんによるコラムです。

ANGELIKAは吉祥寺・中道通り近くに位置するこだわりのコーヒーとワイン、エッグタルトを提供するお店。コラムを担当する髙田さんはANGELIKAと平行して、現在も映画関連のお仕事をされています。映画愛がつまった月イチの連載コラム、どうぞお楽しみください。

『遠い山なみの光』

記憶は、姿を変える

『遠い山なみの光』 
監督:石川 慶
2025年/日本
出演:広瀬すず、二階堂ふみ、吉田 羊、三浦友和
吉祥寺オデヲンにて上映中

公式ウェブサイト

長崎で生まれ、のちにイギリスに渡った悦子は、戦後間もない長崎で出会った佐知子という女性との思い出を娘に話し聞かせます。でも、悦子は嘘をついている。彼女の話の何が嘘なのか、なぜ嘘をつくのか…。

原作は、母の長崎での被爆体験をもとにしたカズオ・イシグロの25歳のデビュー小説。40年を経ての映画化にあたり、「今の世代のための“語り直し”です」と語り、戦争の傷跡を克明に描く提案を重ね、プロデューサーのひとりとして映画を完成させました。

長崎時代の悦子が、教え子たちを守れなかったことを「私のせい」と泣きながら告白するシーンが印象的です。現代を代表する若手俳優の広瀬すずが、この役に魂を込めて演じていて心を打たれました。“語り直し”の意味を深く感じたシーンです。記憶の重みに打ちのめされながらも、強く生き続けた多くの“悦子”の存在に想いを馳せました。

『遠い山なみの光』 2025年/日本/監督:石川 慶/出演:広瀬すず、二階堂ふみ、吉田 羊、三浦友和 配給:ギャガ ©2025 A Pale View of Hills Film Partners 吉祥寺オデヲンにて上映中

『遠い山なみの光』を観たあとは、この映画がおすすめ!『わたしを離さないで』

『わたしを離さないで』
監督:マーク・ロマネク
2010年/イギリス・アメリカ
出演:キャリー・マリガン、アンドリュー・ガーフィールド、キーラ・ナイトレイ

ディズニープラスのスターで配信中

おすすめしたいもう1本も、カズオ・イシグロ原作映画を選びました。外界から隔絶されたような田園地帯の寄宿学校で学ぶキャシー、ルース、トミーは、臓器提供者になるために育てられている“特別な子ども”。3人の友情が芽生えた10代、18歳での別れ、10年後の再会、そして“役割の終了”までが、美しくも物悲しい映像世界の中で描かれます。

「あなた方の人生はすでに決まっています。短い人生です。自分を知ることで、生きることに意味を持たせてください」。寄宿学校の教師の教えを、聡明なキャシーは誰よりも深く理解し、先を見るより過去の記憶を大切に抱えながら、今を生き続けます。

カズオ・イシグロは大好きな小説家です。あるインタビューで「私が小説の中で探求するのは、狭い社会に閉じ込められながらも、人生をなんとか意味あるものにしたいと奮闘する人たちの姿です」と語っています。『遠い山なみの光』の悦子が、娘に嘘をついた理由も、『わたしを離さないで』のキャシーが、トミーと心を通わせたあの日を忘れない理由も、人生を意味あるものにするための手段。両作品の主人公である彼女たちの、自分の人生のために奮闘する姿に、私は深く心を揺さぶられました。

『わたしを離さないで』2010年/イギリス・アメリカ/監督:マーク・ロマネク/出演:キャリー・マリガン、アンドリュー・ガーフィールド、キーラ・ナイトレイ ディズニープラスのスターで配信中 © 2025 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved.