街々書林の今月の旅する1冊

街々書林の今月の旅する1冊

吉祥寺中道通りに位置する「街々書林 Books & Gallery」の店主であり、旅に関する本を執筆してきた「旅行作家」でもある、小柳淳さんによる月イチの連載コラムです。本の世界の「旅」を、どうぞお楽しみください。

シリーズ一覧

カレルチャペック旅行記コレクション3 スペイン旅行記 〜街々書林の今月の旅する1冊

2023年2月からはじまった「街々書林の今月の旅する1冊」。
吉祥寺中道通りに位置する「街々書林 Books & Gallery」は、旅にまつわる本や雑誌、雑貨を販売しているユニークな書店です。このコラムは、街々書林の店主であり旅に関する本を執筆してきた「旅行作家」でもある、小柳淳さんによる月イチの連載コラムです。本の世界の「旅」をどうぞお楽しみください。

カレルチャペック旅行記コレクション3 スペイン旅行記

カレルチャペック旅行記コレクション3 スペイン旅行記
カレル・チャペック 著
飯島 周 編訳
筑摩書房
価格:858円
発売日:2007年3月7日
ページ数:256ページ
書籍詳細

チェコの作家・ジャーナリスト、カレル・チャペックの視線は、温かくも鋭く、文章はお茶目で饒舌だ。ピレネーを越えると、車窓に広がる大地の色彩が異質に変化することに驚嘆してスペインが始まる。マドリードのプエルタ・デル・ソル(太陽の門)に集う人々。神父の服装、郷士や紳士、農民のいでたちを描写し、靴磨きのダンスのような手さばきを称賛し、女性たちの羽織るマンティーリャというショールに感心する。プラド美術館ではベラスケスの天才と人間性を射抜く。

車窓に映るスペインの大地(撮影=小柳淳)

スペイン南部のアンダルシアに着くと、アラブ・イスラム風が濃厚に残る街のつくりと花に満ちたセビーリャを、ほほえんでいると言う。曲りくねった細い街路を歩き、家の窓にはめられた黒い鋳鉄製格子の多彩な紋様を愛でる。中庭・パティオの涼し気なたたずまいとそこに溢れる多種多様な植物の名を語り尽くす。そう、たくさんの植物の名が、カメリア、紫露草、クレマチス、棕櫚、フェニックスと、次々と繰出される言葉の洪水に、読者も一緒にスペインを歩いている気分になってくる。そしてこの本の魅力は、随所に添えられているチャペックの線画だ。ショールを羽織る女性、フラメンコ、闘牛士、大聖堂、ロバそしてパティオ。シンプルな線が不思議なほどリアリティをもって目に映る。チャペックはとても楽し気に語りながら旅をしているのだ。100年を経てなお色あせないスペイン紀行だ。

細く曲りくねるセビーリャの街路(撮影=小柳淳)