街々書林の今月の旅する1冊

街々書林の今月の旅する1冊

吉祥寺中道通りに位置する「街々書林 Books & Gallery」の店主であり、旅に関する本を執筆してきた「旅行作家」でもある、小柳淳さんによる月イチの連載コラムです。本の世界の「旅」を、どうぞお楽しみください。

シリーズ一覧

「週刊きちじょうじ」と「週刊きちじょうじオンライン」で毎月第1週にお届けしている「街々書林の今月の旅する1冊」。 「街々書林 Books & Gallery」は、旅にまつわる本や雑誌、雑貨を販売しているユニークな書店。吉祥寺中道通りに位置しています。街々書林の店主であり旅に関する本を執筆してきた「旅行作家」でもある、小柳淳さんによる月イチの連載コラム、本の世界の「旅」をどうぞお楽しみください。

ベルリン 東ドイツをたどる旅

ベルリン 東ドイツをたどる旅
見市 知 著
産業編集センター
価格:1,430円
発売日:2009年9月30日
ページ数:140ページ
書籍詳細

第二次大戦後の冷戦時代、東西に分かれて別々の国だったドイツは東西が接する冷戦の最前線だった。東ドイツはソ連を中心にした社会主義陣営に属していた。ベルリンは市域が東西に分かれ、そこに「壁」と呼ばれた塀が人々の行き来を妨げていた。「壁」は1989年に崩壊し、人々がコンクリート塀を打ち壊す映像が世界中に報道された。そしてドイツは1990年にひとつの国に戻る。30年以上も前の、もう歴史としてしか知らない人も多いだろう。

東西ベルリンと人々を隔てていた「壁」(撮影=小柳淳)

この本は、留学でたまたま東西ドイツ統一の時期に東ベルリン地区に住んでいた著者によるもの。東西統一後20年を経たころ東ベルリン地域を巡り、東側にあった暮らしを再発見してゆく紀行だ。東側のアート「社会主義的芸術」の残滓(ざんし)や建築物、東側の家庭料理を出すレストランや博物館などをめぐる。地下を東西ベルリンまたいで走るため、「幽霊駅」と呼ばれる降りられない地下鉄駅の解説もある。西~東~西と走るその地下鉄は、誰も降車できない通過扱いの東側「幽霊駅」にさえ警備隊が配置されていたという。統一後もところどころ市内に残る、東西を隔てていた「壁」の構造や、西側へ脱出しようとして命を落とした人々の記憶。そして市民生活を探り相互監視を強いていた秘密警察。冷戦時代と社会主義体制の冷酷さを感じるが、この本の救いは何もかも東側は悪かったというトーン一色でないこと。約30年間東西に分かれていた事実、東側で暮らした人々への優しい視点が感じられる。

東時代に建設されたベルリンテレビ塔、今も現役(撮影=小柳淳)