「週刊きちじょうじ」と「週刊きちじょうじオンライン」で毎月第2週にお届けする「ANGELIKAで映画の話を」。「カフェ&ワインバル ANGELIKA(アンジェリカ)」共同オーナーの髙田和子さんによるコラムです。

ANGELIKAは吉祥寺・中道通り近くに位置するこだわりのコーヒーとワイン、エッグタルトを提供するお店。コラムを担当する髙田さんはANGELIKAと平行して、現在も映画関連のお仕事をされています。映画愛がつまった月イチの連載コラム、どうぞお楽しみください。

『教皇選挙』

確信してはいけない。疑念を持て。

『教皇選挙』
監督:エドワード・ベルガー
2024年/アメリカ・イギリス
アップリンク吉祥寺他全国公開中

公式ウェブサイト

世界に約14億人の信徒を有するカトリック教会の最高位、ローマ教皇を選ぶコンクラーベを描くミステリーです。新教皇の座をめぐる濃厚な人間ドラマは見応えたっぷり。そして、枢機卿の長衣の深い赤、緻密で大胆な構図、緊迫感を助長する音楽の、神懸り的な美しさに圧倒されます。

「疑念を持ち続けるリーダーを求めたい」。首席枢機卿ローレンスの選挙前説教が印象的です。「正しいとされてきたものを疑おう。その先に寛容が訪れる。そして、疑うことに不安になった時のためにこそ信仰が存在する」という言葉が、映画のテーマとなって結末に行き着きます。

苦悩しながら信念を見出すローレンス役のレイフ・ファインズもよかったですが、神に仕える身としての誇りを体現するシスターを演じたイザベラ・ロッセリーニの存在感が際立ちました。

2025年4月21日のフランスシスコ教皇死去により、次の教皇を選ぶコンクラーベが始まったなかで上映中という、タイムリーな映画。今年の話題作の1本です。

『教皇選挙』 2024年/アメリカ・イギリス/監督:エドワード・ベルガー/出演:レイフ・ファインズ、スタンリー・トゥッチ、ジョン・リスゴー、イザベラ・ロッセリーニ 配給:キノフィルムズ © 2024 Conclave Distribution, LLC. アップリンク吉祥寺他全国公開中

『教皇選挙』を観たあとは、この映画がおすすめ!『2人のローマ教皇』

『2人のローマ教皇』 2019年/イギリス・イタリア・アルゼンチン/監督:フェルナンド・メイレレス/出演:アンソニー・ホプキンス、ジョナサン・プライス

2025年5月7日から始まったコンクラーベは、4月に亡くなったフランシスコ教皇の改革路線継承か、保守派復帰かが焦点となりました。本作は、2012年、当時のローマ教皇だった保守派のベネディクト16世と、翌年に教皇の座を受け継ぐことになる改革派のベルゴリオ枢機卿(のちのフランシスコ教皇)との間で行われた対話を、実話に着想を得て描いた映画です。

伝統と教義を厳格に守るべきというベネディクトと、市民に寄り添うベルゴリオ。分かり合うことのない2人の会話は盛り上がるはずもなく、そのことを逆に面白がるかのように皮肉を言い合ったり、小馬鹿にしたり、言い負かして悦に入ったり…2人のその様子が何ともユニーク! ところが、この2012年というのは、教皇庁の内部告発文書の流出や司祭による性的虐待の発覚などでバチカンが大きく揺れた年。2人は、それぞれの理由で、相手と話をしたいと切実に願い、以心伝心で互いを呼び寄せあったことが分かります。

この映画が余韻として残すのは、自分とは違う考えを持った相手を否定せず、自分では成し得ない業績を残してくれることを信じ、互いを敬った2人の寛容さ。「壁ではなく橋を作ろう」という言葉が心に響きます。6年前の映画ですが、今、観るべき1本です。