街々書林の今月の旅する1冊

街々書林の今月の旅する1冊

吉祥寺中道通りに位置する「街々書林 Books & Gallery」の店主であり、旅に関する本を執筆してきた「旅行作家」でもある、小柳淳さんによる月イチの連載コラムです。本の世界の「旅」を、どうぞお楽しみください。

シリーズ一覧

フォルモサ南方奇譚 〜街々書林の今月の旅する1冊

「週刊きちじょうじ」と「週刊きちじょうじオンライン」で毎月第1週にお届けしている「街々書林の今月の旅する1冊」。 「街々書林 Books & Gallery」は、旅にまつわる本や雑誌、雑貨を販売しているユニークな書店。吉祥寺中道通りに位置しています。街々書林の店主であり旅に関する本を執筆してきた「旅行作家」でもある、小柳淳さんによる月イチの連載コラム、本の世界の「旅」をどうぞお楽しみください。

フォルモサ南方奇譚

フォルモサ南方奇譚
倉本知明 著
春秋社
価格:2,750円
発売日:2025年4月16日
ページ数:368ページ
書籍詳細

台湾の南部と東部地域は、華人が来島する前から住む原住民が暮らしています。約16部族ともいわれ、言語・習慣が異なります。台湾文学の専門家でもある著者は、台湾南部である高雄、台南、屏東、台東、墾丁などをバイクで走り、多彩な台湾原住民の地域と暮らしと文化を訪ねます。登場するのは原住民だけでなく、大陸から出稼ぎ・移民・難民として移ってきた華人たち。原住民の数多の言葉が溢れるのに、福建語、台湾語、客家語、北京官話などの言語が重なってきます。そこへ近代にはポルトガル、オランダ、日本など外部勢力が加わり歴史を複雑にしてきました。

市街地の塀に描かれた原住民の絵(撮影=廣田兼一)

この本で一貫して台湾南部への優しい眼差しと深い知識がほとばしる流麗な文章が綴るのは、地元の伝説や言い伝え、事件。オランダ人、琉球人、日本人との交流やすれ違いそして争い。「奇譚」というにふさわしい、不思議な出来事や事件、祭りの話が続き、台湾南部に関する深く広い知識が読者を引きこみます。バイクで物語の現場に足を運ぶ著者はいつもひとり。そのため、臨場感のあるモノローグの旅を一緒にしているような気持にもなります。奇譚だけに耽るわけではなく、日本時代の占領政策の記録も現れ、植民地支配の過酷さを思い知ります。そして、大学教員としての台湾学生との会話から、現代台湾の際どい立ち位置をも想い起こさせてくれます。この土地を愛でるような、読書の楽しさを感じる作品です。

高雄灯台付近から北を望む(撮影=廣田兼一)

街々書林 Books & Gallery

2023年6月、吉祥寺の中道通りにオープンした書店。「旅する本屋」を掲げ、旅に関する本や雑誌、雑貨を販売。店内奥には貸ギャラリーも。