アンジェリカで映画の話を

アンジェリカで映画の話を

毎月第2週にお届けする「カフェ&ワインバル ANGELIKA(アンジェリカ)」共同オーナーの髙田和子さんによるコラムです。コラムを担当する髙田さんはANGELIKAと平行して、現在も映画関連のお仕事をされています。映画愛がつまった月イチの連載コラム、どうぞお楽しみください。

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「週刊きちじょうじ」と「週刊きちじょうじオンライン」で毎月第2週にお届けする「ANGELIKAで映画の話を」。「カフェ&ワインバル ANGELIKA(アンジェリカ)」共同オーナーの髙田和子さんによるコラムです。

ANGELIKAは吉祥寺・中道通り近くに位置するこだわりのコーヒーとワイン、エッグタルトを提供するお店。コラムを担当する髙田さんはANGELIKAと平行して、現在も映画関連のお仕事をされています。映画愛がつまった月イチの連載コラム、どうぞお楽しみください。

『国宝』

「守ってくれる血が俺にはない。」「芸があるやないか。」

『国宝』
監督:李相日
2025年/日本
出演:吉沢亮、横浜流星、渡辺謙 
全国東宝系にて公開中

公式ウェブサイト

任侠の一門に生まれ歌舞伎の名門に引き取られた喜久雄と、歌舞伎界の御曹司・俊介。喜久雄は俊介の血筋に、俊介は喜久雄の技量に、嫉妬し、それでも執着し、喜久雄は俊介を、俊介は喜久雄を一生涯必要とするのです。吉沢亮が魅せる一点の迷いもない美しい踊り。横浜流星が魅せる血筋の良さが滲み出る踊り。逆のキャスティングはあり得ないと思わせます。

選ばれし者のみが知る、客席の向こうから舞台を照らす光の神々しさ。その光の先にあるはずの、見たことのない景色を見るために犠牲を厭わない覚悟。“覚悟“は物語上重要なワードですが、俳優ふたりが役に賭けた“覚悟“も映画の見どころで、迫真の演技に深く感動させられます。圧巻の歌舞伎上演シーンは勿論、引幕が開くザザッザザザッという音の緊張感までもが脳裏に焼き付きます。劇場で、圧倒されながら観るべき映画です。

吉祥寺オデヲンでの上映は2025年7月末頃までとのことです。劇場でしか味わえない臨場感を、ぜひ体験してください。

『国宝』2025年/日本/監督:李相日/出演:吉沢亮、横浜流星、渡辺謙 ©吉田修一/朝日新聞出版 ©2025映画「国宝」製作委員会 全国東宝系にて公開中

『国宝』を観たあとは、この映画がおすすめ!『さらば、わが愛/覇王別姫』

『さらば、わが愛/覇王別姫 4K修復版Blu-ray』
価格 Blu-ray ¥5,720(税込) 発売・販売元 KADOKAWA

『国宝』の李相日監督は、学生時代に『さらば、わが愛/覇王別姫』を観て以来、歌舞伎をテーマに映画を撮りたいと思い続けていたと語っています。

京劇の世界で生きる二人の男と、彼らを巡る一人の女の愛憎の人生を、激動の中国史を背景に描く一大叙事詩。私は1994年の公開当時劇場で観て、濃密な人間ドラマに大きな衝撃を受けたことが今でも忘れられません。

二人は京劇の古典『覇王別姫』で名声を得ますが、女形の蝶衣は、虞姫を演じ続けるうちに現実と虚構が曖昧になっていきます。人気絶頂期のスター、レスリー・チャンの、鬼気迫る演技で美と狂気を体現する姿に圧倒されました。

『さらば、わが愛/覇王別姫 4K修復版Blu-ray』 価格 Blu-ray ¥5,720(税込) 発売・販売元 KADOKAWA (C) 1993 Tomson(Hong Kong)Films Co.,Ltd.

『国宝』の喜久雄は、“血筋”という壁に苦しめられますが、本作の蝶衣は“時代の波”に激しく翻弄されます。自分の力ではどうにもならないものに苦しめられるという試練。『国宝』の、「歌舞伎が憎くて仕方ないはず。でもそれでいい。やめられないのだから」というセリフが印象的でしたが、両方の映画に通じる、芸の残酷さと愛おしさを見事に表現しているものだと思います。

『さらば、わが愛/覇王別姫 4K』 2025年7月現在、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下で上映中!

さらば、わが愛/覇王別姫 4K