「MoCA EXPO’22 #まちの文化、ためてみました」報告会:武蔵野地域と文化の関係とは?

東京大学小林真理ゼミによる報告会「MoCA EXPO’22 #まちの文化、ためてみました」が3月21日、22日に武蔵野プレイスで開催されました。

むさしの文化アーカイブ「MoCA」は武蔵野市をフィールドにヒト・場所・活動を調査・公開し、市の文化を記録する活動。今回の報告会はシンポジウムとポスター・映像展示の形態をとり、研究成果を通して、来場者に「まちの文化」について考えてもらうことを目標に開催されました。

Day 1:シンポジウム・ポスター展示

東京大学 小林真理教授

3月21日のシンポジウムでは小林真理教授による挨拶の後、学生たちから見た武蔵野市の文化のあり方が簡潔に報告されました。

学生たちによる成果発表のあとはトークセッション。成蹊大学から川村陶子教授と槇原彩さん、弊誌から編集長の大橋一範が登壇し、学生の発表についてディスカッションしました。

トークセッション

成蹊成蹊大学文学部にて芸術文化行政コースを運営するほか、地元で武蔵野アール・ブリュット実行委員等をつとめる川村教授からは学生たちが「武蔵野に住む人・武蔵野で働く人が気づかないこと」を掘り出していると評価。中央線沿いの文化と武蔵野文化の比較・関係を質問すると、担当した学生は「吉祥寺にはおしゃれな街という印象があるけれど歩いてみると荻窪と文化的につながっているのが分かる。駅やエリアの文化は共通点を持ちながらもそれぞれの特色を持っている」と答えていました。

成蹊大学 川村陶子教授

成蹊大学にて武蔵野市の文化施設と連携した授業を開講する槇原彩先生は校歌班に着目。校歌班は「武蔵野」という地名・自然が多くの校歌に歌いこまれていると発表していたのに対し、地名・自然のように校歌に歌いこまれることが多い地域の産業は歌詞で触れられているかを問いかけました。校歌班の学生さんは「産業を歌いこんだ校歌はなかった」とその場で資料を確認しながら回答していたのが印象的でした。また、新しく制定された校歌には他と比べて「みんなで仲良く」といった抽象的な表現が使われていることに触れ、校歌の歌詞の内容に時代によって変化があることも紹介していました。

成蹊大学 槇原彩先生

週刊きちじょうじ編集長の大橋一範は、学生たちの活動とアーカイブとのつながりに触れました。アーカイブは「過去を知らない人が遺産を捨ててしまわないようにするためのもの」として価値があると話すと、学生からも「現在の武蔵野市の文化資源の現状に疑問を感じた」と声があがりました。大橋は、今後の活動を通して、より多くの人に武蔵野市の文化について考える機会を作ってほしいと学生の活躍に期待を寄せました。

週刊きちじょうじ編集長 大橋一範

トークセッション終了後、学生の発表をまとめたポスターを見て回り、報告会初日は終了となりました。

Day 2:ポスター展示・映像の放映

会場は学生たちで運営されていました

3月22日にはポスター展示や映像の放映が行われました。会場には常時ゼミ生が待機しており、それぞれの展示について解説を聞いたり質問をすることができました。

草むしり班による活動の様子

【吉祥寺シアター班】

吉祥寺シアター班は武蔵野市の公共劇場「吉祥寺シアター」に焦点を合わせ、アンケートとインタビューを通して吉祥寺シアターが社会や地域に対してどのような影響・役割を持っているのかを調査しました。吉祥寺シアターには歓楽街だった吉祥寺「イーストエリア」の環境改善のために設置された公共施設という側面もあります。市による街の浄化政策が現在どのように作用しているかについての分析も注目です。

【音楽班】

音楽班ではジャズ喫茶「音吉!MEG」の柳本信一さんとライブハウス「シルバーエレファント」の木本幸恵さんに直接インタビューを行い、武蔵野固有の音楽文化を探っています。インタビューを通して見えてきたのは、意外にも共通点ではなく「違い」なんだとか。吉祥寺における音楽文化を担う2つの姿勢に迫っています。

【モニュメント班】

モニュメント班は武蔵野市内に設置されているモニュメントをマッピングし、「見える化」に取り組みました。とあるゼミ生の地元にはモニュメントが多く設置されているのに対し、武蔵野市では像をあまり見かけない、という気付きから始まったという今回の研究。モニュメントの中には草で覆われてしまっていたものもあり、今後モニュメントがどのように管理されていくべきか、考える必要があると感じたといいます。

【草むしり班】

草むしりはモニュメント班から派生して生まれたテーマです。草に覆い隠されたモニュメントの周りをきれいに清掃して改めて銅像に関心を持ってもらえないか、という企画です。また、銅像と一緒に「記念写真」を撮ることで、銅像に愛着や思い出を持ってもらうことも目指しました。活動の写真はインスタグラムでも見ることができます。

【Instagram】モニュメント×草むしり(むさしの文化アーカイブ)

草むしり班 活動の様子

【アートプロジェクト班】

アートプロジェクト班は「文化・芸術が人の暮らし・社会に与える影響とは何か」という問題意識のもと、文化・芸術が暮らしや社会に与える影響や、人々による文化の捉え方を探ります。この研究では、JR中央線高円寺駅〜国分寺駅区間をメインに展開した地域密着型アートプロジェクト「TERATOTERA」を取り上げ、経験者へのインタビューを通してアートと地域の関係性を読み解きます。

【校歌班】

校歌班は、誰しも一度は触れたことがある「校歌」に注目し、その歌詞を分析することを通して武蔵野地域の文化や土地の性質を探っています。また、NPO高齢者の音楽を考える会代表の庵原えい子さんへインタビューを行い、音楽家たちと武蔵野地域との関わりの特徴に迫ります。

https://moca.kobayashi-lab-cm.org/2022/03/19/musashino-music-interview/

MoCA EXPO’22 学生たちの発表を受けて

今回の報告会では学生たちの「気づき」が大きなテーマだと感じました。学生たちは武蔵野を実際に歩き、そこに生活する人に話を聞きながら目の前のものを記述することで、武蔵野文化に対する新しい発見をしています。それは今その答えを解き明かすものではありませんが、川村教授がおっしゃっていたように「武蔵野に住む人・武蔵野で働く人が気づかないこと」に意識を向けるきっかけになると思います。

学生たちは来年以降も調査の幅を広げながら武蔵野文化を深堀りしたいと意気込んでくれました。彼らの探求がより多くの人の目に触れて、武蔵野に新しい風を吹かせてくれることを期待しています。