書物蔵の吉祥寺古本屋さんモーデ

書物蔵の吉祥寺古本屋さんモーデ

大ヒット『調べる技術』著者(の魂の双子)の古本マニアの書物蔵さんによる連載です。吉祥寺や中央線沿線の古本屋さんで出会った古本や面白くってためになるお話を書物蔵風にお届けします。

シリーズ一覧

よみた屋さん均一台で珍書を拾う~書物蔵の吉祥寺古本屋さんモーデ vol.1

こんにちは、書物蔵です。このハンドルネームはブログ全盛時、当時の勤め先にちなんでつけたもので、実体は一介の古本マニアです(私の古本遍歴は南陀楼 綾繁(なんだろう あやしげ)古本マニア採集帖』皓星社、2021を参照)。このたび縁あって週刊きちじょうじさんに連載させていただくことになりました。吉祥寺がらみの古本ネタを現在、過去を含め随時随想していきたいと思います。

文体がヘンなのはブログ時代の名残にてご容赦……。

第4の古書店街は、いま、吉祥寺

吉祥寺と言えば……。実は日本で4番目の古本屋街となりつつあるのはご存知か?(´・ω・)ノ 2000年代以降「街の古本屋」がどんどん減って、増えるのは郊外型「新古書店」ばかりだったが、実は東京の中央線文化圏は別で、むしろ新しいオシャレ系古本屋が増えとるのぢゃ。ブックオフなど新古書店は、明るく広くきれいぢゃが、残念! 深みが薄い。その点、中央線文化圏に新しくできる古本屋さんは、明るくきれいで深みもあるっちo(^o^o)

日本で古書店街といえば、神保町、本郷、早稲田ってーことになっとるんぢゃが、4つ目は? ……実は最近、吉祥寺になりつつあると思う。老舗で正統的な藤井書店さん、外口書店さんなどはわちきもおほ昔、関東一円の古本屋まわりをした際に行ったんぢゃが、新興の筆頭、古本よみた屋さん、魔窟的な古本センターさん、おニューなサブカル系バサラ・ブックスさんなどを擁し、新興の棚貸し、ブック・アパートさん、2021年できた古本のんきさんなど、新旧取り混ぜて勢いのある店が10店舗以上ある街はそうそうない。実は1990年代、第4の古書店街は高円寺だったんぢゃが、その勢いがさらに西漸したといえよう。特に、デートでも使える百年さんみたいなハイブラウなお店もあるのは吉祥寺ならではぢゃ(゚-゚*)(。。*)ウンウン

均一台は店内本の補集合なんよ

古本屋の昔話はおいおいやるとして、ここ数年、わりとよみた屋さんに行くようになったんよ(゜~゜ ) ってーのも、店頭の均一本にオモシロいものがあるから。街の古本屋は店頭に均一本(100円とか200円とか)を出して往来の人を引きつける、という戦術を伝統的にとるんぢゃが、そこにいわゆる掘り出しが混ざっていることがある。数年前までなら荻窪のささま書店が東京一、均一本の質が良かったんだが、閉店してしまったので、現在はよみた屋さんと西荻の盛林堂さんの均一が要注目ってぇのが古本マニアの下馬評ぢゃ(´・ω・)ノ

盛林堂さんの均一は、店内本がSFやミステリ主体であることから正統的文学書が多いけれど、よみた屋さんは店内本が総合、全ジャンルなので、均一本が「その他」のものであるところがミソ(σ ・∀・) 一般に均一本はその店の専門、主力ジャンルたる店内本にならない本を出すので、一定程度、均一本に店内本の反対なり同じなりの流れが反映されるのであった。新興名店の百年さんを差し置いてわちきがよみた屋さんに引き寄せられるのは、ひとえに均一台によるものにて、それは実はよみた屋さん棚構成の総合性に由来するのであった。その他というのは総合・なんでもの下で花開くからねぇ(゜~゜ )

古本フレンズに教えられた均一台で

よみた屋さんの均一がイイですよと古本フレンズの「兵務局」さんに聞いたのと、三鷹のほうに知り合いができたのとがあいまって、近年ちょいちょいよみた屋さんを覗くようになっていたが、2020年9月に均一台で拾った古本がこれ。

・学習作法 : 情報化時代の知的生活入門 / 林達 著. 中央大学生協出版局, 1990.4

こういったハウツー本というか、大学教科書ですらない周辺的に発生する本は、そもそも古書価がつかないんだけれど――実際、販売サイト「日本の古本屋」で販売されていない――きちんと読み込むと、今となってはオモシロいことが書かれていることが多い。特に最近、本の使い方の歴史を調べているので、ふつうの読書術本に書いていないことが書いてあるのがありがたい。

当たり前すぎることは書かれない

特にこの本の珍なとこは、あたりまえ過ぎる文房具の使い方や――消しゴムの使い方とか――本の、物理的使い方について書いてあるとこ。この本では特に、ページの折り込みについて書いてあって驚いた(@_@;)  英語でdog earといわれる本のページの折り込みをすると、栞代わりになることを、この本では「角折」と呼んで説明している。そもそも「角折」――読みは「かどおり」だろう、日本国語大辞典にも立項がないので造語か――なることは、してはいけないことの一つにされているので、呼び方も知らなかったし、ましてやそのやり方を書いてある本も始めて見た。ちなみに、まれに製本ミスで製造時にページの角が折り込まれたまま裁断されて、その端が開く場合には「福耳」という。

1980年代、電車の床に何が落ちていたか?!

栞を説明する過程で文中に「電車の中によく文庫本や新書本の栞カードが落ちているのは」とあるのもとってもオモシロ(゚∀゚ ) 平成前半まで、日本人はさかんに車中読書をしていたことは画像等から明らかだけれど、小型本(文庫本、新書)が多用され、なおかつ栞ひも(スピン、新潮文庫にだけまだある)が廃止されたあと、紙の栞(栞カード)が客車中に「よく」落ちていたという証言は初耳だ。当時生きていた人が今「そういや、1980年代、電車の中によく文庫本の栞が落ちていたなぁ」なんて回想はしてくれないからねぇ……。自分もその時期、通学などに帝都高速度交通に乗っていたが、車内床の汚れ・散らかり具合を思い出しても、せいぜいチューイングガムがべったり貼り付いていたことぐらいしか思い出せない。これは非常に得難い証言ぢゃ(゜~゜ )

単行本の著者ならどんな人でもでてくる国会図書館の名称典拠によれば。著者は林 達(ハヤシ,トオル, 1928-)といい、経済史学者ということになっている。

この手の「その他」的なオモシロ知識が載っている本は、それこそ均一台から拾いあげるしかない。安いものとだけ考えると古本屋の店頭均一台はもったいないのです(∩´∀`)∩