劇団「前進座」は今年で93年。俳優の嵐市太郎さんにインタビュー!

前進座は、東京都武蔵野市を本拠とする日本の歌舞伎も上演する劇団です。1931年に創立し、今年で93年目を迎えます。

今年2024年には「花こぶし 親鸞聖人(しんらんしょうにん)と恵信尼(えしんに)さま」、「くず~い 屑屋でござい」、「人情噺 文七元結(ぶんしちもっとい)」、「ひとごろし」、「松本清張朗読劇シリーズ」、「さんしょう太夫 - 説経節より -」「雪間草-利休の娘お吟-」などが全国各地で上演、上演予定となっています。「雪間草-利休の娘お吟-」は、2024年11月21日に武蔵野市民文化会館で上演予定です。

今回は現在劇団の中で活躍している嵐市太郎(あらし いちたろう)さんにお話をうかがってきました!

取材のはじめに案内していただいたのは、その日もお芝居の練習が行われる稽古場。床は2013年に閉館した前進座劇場の舞台の板が貼られ、天井も防音工事が施されています。貫禄のあるその稽古場は、前進座の歴史を感じられる空間でした。壁には歴代の役者さんや演出家さんの写真が飾られ、いつでも現役の役者さんの稽古を見守ってくれています。

少しピリっとした空気の中で「これ、うちのひいおじいちゃんです」と優しく話はじめてくれたのは、現在、前進座で活躍中の俳優、六代目嵐市太郎さん。

なんと市太郎さんは曽祖父、祖父、父も前進座の俳優をされていて、ご自身も前進座の役者を務める生粋の前進座っ子。幼い頃から前進座の中で育ってきました。

前進座は家族。プライベートと仕事の境界線がない生活が当たり前の日常だった

吉祥寺生まれ吉祥寺育ちの嵐市太郎さん。ご両親も前進座の役者さんだった市太郎さんは「私が子どもの頃は、劇団のみんなも一緒に社宅に住んでいました。稽古途中のお昼休憩は家に帰ってきて食事をし、また稽古場へ行くような状態が日常でしたね」と当時を振り返ってくれました。大人も子どももプライベートと仕事の境目がなく、前進座のメンバーみんなが家族のような存在だったそうです。また、市太郎さんと同世代の子どもも多く、学校のことも同じ社宅に住むお兄さん、お姉さんから教わり、自分も年下の子どもたちに教えてきたといいます。「ひとつの集落のような感じで支え合って生活していくのが当たり前でした」と、前進座のみんなと協力しながら過ごしてきた時間が今の市太郎さん支える土台となっています。

3歳で日本舞踊の舞台デビュー、6歳で国立劇場の舞台を踏んだ市太郎さん

市太郎さんのお祖母様は日本舞踊の師範でした。市太郎さんは3歳からお祖母様に日本舞踊を教えてもらっており、なんと3歳で日本舞踊の舞台デビュー。「靭猿(うつぼざる)」という演目で子猿の役を務めました。「毎週土曜日は祖母の家にいく日で、日本舞踊の稽古をつけてもらっていました。熱が出たり、体調が悪いとか、そういうことがない限りは本当に毎週。自分にとっての土曜日は日本舞踊の日でした。稽古の後はおばあちゃんとご飯食べたりして楽しかったですね。ですがある時、あれ?みんな土曜日って友達と遊んだりしてるんじゃないのかな?と、ふと思って。それが18歳くらいです(笑)」と、3歳から高校卒業まで、日本舞踊が生活の一部だった市太郎さん。笑顔で話すその表情から、日本舞踊とお祖母様が大好きな気持ちが伝わってきました。

そして3歳の日本舞踊デビューに続き、6歳では前進座の国立劇場公演にて「魚屋宗五郎」の酒屋丁稚役で初舞台を踏みます。子ども時代の舞台経験は市太郎さんにとって「今の人格形成にものすごく影響したと思います。 前進座のお客さまにもご挨拶する機会が多かったですし、初対面の方と話すことが当たり前だったので、物怖じしない子どもでした」と、役者として必要な力が自然に身についていたそう。

また、高校生になると父である河原崎國太郎(かわらさき くにたろう)と連獅子で舞台出演をしたりと役者としても大きく成長していきました。

役者になるなら前進座。それが一番ナチュラルでした

高校卒業後は役者として生きていこうと思っていなかったと話す市太郎さん。学生時代は吹奏楽部でサックスを吹き、将来は演奏家になろうかと考えた時期があったそうです。しかし、高校卒業後に桐朋学園で演劇を学んだことで、やはり役者になろうと決意。「役者をやるなら前進座。と、迷いなく決めました。それが自分にとっては一番ナチュラルでしたね」と前進座と共に過ごしてきた市太郎さんならではの選択をしました。

現在は一年間の半分以上を公演のため地方で過ごしている市太郎さん。「舞台に立っていないと不安になる」との言葉からは、前進座の役者である責任感と、より良い舞台をめざす気持ちが伝わってきました。

忙しい日々を送る市太郎さんですが、地元吉祥寺で過ごす時間も楽しんでいるとのこと。趣味のダーツをしに出かけることも多いそうで、高校生の頃にはU19のダーツ大会に出場したことも。「日本舞踊もダーツも、楽しいと思うことはずっと続けていられますね」と、自分の“好き”にとことん向き合う姿勢が市太郎さんの魅力のひとつです。

週きち読者のみなさんにメッセージ

前進座は地元に根ざした活動もずっと続けてきました。去年は青少年劇として「まげすけさんとしゃべるどうぐ」を武蔵野公会堂で上演したり、保育園の子どもたちに劇をみてもらったりしました。歌舞伎や日本舞踊など、日本の文化を守っている劇団が地元にあるということを知って楽しんでほしいと思っています。吉祥寺に生まれてきた子どもたちが「おしばい文化」に触れ、どこかでおしばいを見かけた時には前進座を思い出してくれたら嬉しいです。

市太郎さんご自身も子ども時代に見た演劇が今でも記憶に残っているとのこと。

劇中の世界に入り込んだり、役を自分に重ねたりと、子どもならではの感覚で観劇することで新しい感性の扉が開きそうです。子どもから大人まで楽しませてくれる前進座の公演。近くで公演がある時には、ぜひ足を運んでみてくださいね。

【写真=編集部撮影】