前進座 舞台のいろは

前進座 舞台のいろは

前進座 舞台のいろは「シンデレラの鬘(カツラ)」

1931年に創立した前進座は、東京都武蔵野市を本拠とする日本の歌舞伎も上演する劇団です。

歴史ある劇団から舞台の裏側を学べるコラム「前進座 舞台のいろは」では、舞台まわりの小道具の紹介や知られざる役者さんのあれこれをご紹介します。

「シンデレラの鬘」

代役は突然に降りかかる。
お姫様役者が旅先の病院に盲腸で緊急入院したことが告げられた。別の役で出ていた役者がお姫様の代役となり、さらにその役者の代役を私が勤めることとなった。

深夜に代役を伝えられた私たちは、旅館の食堂のテレビに8ミリヴィデオの機械を繋ぎ、半徹夜で見入った。
動きや台詞はどうにかなるが、鬘はオーダーメイド。天辺(てっぺん)を剃り上げた髪型なら左右から頭を挟むだけなので融通が利くが、お姫様はピッタリのサイズの鬘をすっぽりと被る。前任者の小さな鬘を無理やり被った代役は、頭を締め付けられ舞台で脂汗を流した。


按摩さん役の大先輩が休演になった時には、矢張り(やはり)すっぽり被る坊主頭の鬘をもって演出部が候補者の楽屋を恭しく(うやうやしく)回った。“シンデレラの鬘”だと楽屋雀(がくやすずめ)は噂したのだった。

楽屋雀・・・楽屋に出入りして、芝居や役者の事情に通じている人や芝居通の人のこと。

執筆者 俳優 松涛喜八郎