街々書林の今月の旅する1冊

街々書林の今月の旅する1冊

吉祥寺中道通りに位置する「街々書林 Books & Gallery」の店主であり、旅に関する本を執筆してきた「旅行作家」でもある、小柳淳さんによる月イチの連載コラムです。本の世界の「旅」を、どうぞお楽しみください。

シリーズ一覧

鎮魂の花火「白菊」 長岡の花火がつなぐシベリアと真珠湾 〜街々書林の今月の旅する1冊

「週刊きちじょうじ」と「週刊きちじょうじオンライン」で毎月第1週にお届けしている「街々書林の今月の旅する1冊」。 「街々書林 Books & Gallery」は、旅にまつわる本や雑誌、雑貨を販売しているユニークな書店。吉祥寺中道通りに位置しています。街々書林の店主であり旅に関する本を執筆してきた「旅行作家」でもある、小柳淳さんによる月イチの連載コラム、本の世界の「旅」をどうぞお楽しみください。

鎮魂の花火「白菊」 長岡の花火がつなぐシベリアと真珠湾

鎮魂の花火「白菊」 長岡の花火がつなぐシベリアと真珠湾
山崎まゆみ 著
河出書房新社
価格:2,200円
発売日:2025年7月28日
ページ数:248ページ
書籍詳細

今年は戦後80年です。とても長い年月が経っている気もしますが、戦争の傷あとや記憶はどこかに残っています。敗戦時に大陸や千島列島、樺太からソビエト連邦という国家により非道にもシベリアへ抑留され辛苦をなめた人々が大勢います。過酷な条件下で強制労働させられ、厳寒のシベリアや中央アジアでたくさんの方が亡くなりました。

抑留先の極東シベリアのハバロフスクから生還したひとりに新潟県長岡の嘉瀬誠次がいました。日本三大花火大会のひとつ、新潟県長岡の花火大会を戦後の長い間1社で支え奮闘した花火師です。長大な仕掛け花火「ナイヤガラ」を開発したり、1984年のロサンゼルスオリンピック閉会式で花火をあげるなど、その実力から海外での花火打上げが幾度もあります。

日本三大花火大会のひとつ長岡花火(撮影=小柳淳)

その花火師・嘉瀬誠次があるときふと発した、抑留地で亡くなった人々へ鎮魂の花火を上げたいとの一言。そこから多くの人々や組織を巻きこんで動き出し、なんと1990年夏にロシア・ハバロフスクで花火大会が実現します。そのアムール川花火大会でメインとなったのが白一色の「白菊」です。シベリアから生きて帰ってこられなかった人々に手向ける鎮魂の花火です。花火大会は極東ロシアと日本で生中継されました。花火白菊は現在でも長岡花火大会の最初に上がります。この奇跡のような展開を追ったのが今年7月に出版された本書。長岡からロシアのハバロフスク、ハワイ真珠湾とつながってゆきます。

白菊が打上げられたハバロフスク、アムール川(撮影=小柳淳、1989年)

街々書林 Books & Gallery

2023年6月、吉祥寺の中道通りにオープンした書店。「旅する本屋」を掲げ、旅に関する本や雑誌、雑貨を販売。店内奥には貸ギャラリーも。