街々書林の今月の旅する1冊

街々書林の今月の旅する1冊

吉祥寺中道通りに位置する「街々書林 Books & Gallery」の店主であり、旅に関する本を執筆してきた「旅行作家」でもある、小柳淳さんによる月イチの連載コラムです。本の世界の「旅」を、どうぞお楽しみください。

シリーズ一覧

リスボン 坂と花の路地を抜けて 〜街々書林の今月の旅する1冊

「週刊きちじょうじ」と「週刊きちじょうじオンライン」で毎月第1週にお届けしている「街々書林の今月の旅する1冊」。 「街々書林 Books & Gallery」は、旅にまつわる本や雑誌、雑貨を販売しているユニークな書店。吉祥寺中道通りに位置しています。街々書林の店主であり旅に関する本を執筆してきた「旅行作家」でもある、小柳淳さんによる月イチの連載コラム、本の世界の「旅」をどうぞお楽しみください。

リスボン 坂と花の路地を抜けて

リスボン 坂と花の路地を抜けて
青目 海 著・写真
書肆侃侃房
価格:1,650円
発売日:2013年5月20日
ページ数:160ページ
書籍詳細

ポルトガルの首都リスボンは大河テージョ川の河口にある丘と坂の多い美しい街です。エンリケ航海王子主導の15世紀大航海時代に、アフリカ・南米・アジアの富を集めた余韻を残す壮大な建築物が見られます。安土桃山時代に伊東マンショをはじめとする、天正遣欧少年使節団の上陸した港からまっすぐ伸びる大通りは、彼らがここから陸路ローマを目指したのでしょうか。

アルファマの丘の曲がりくねった細い道では炭火焼イワシの香りがしますし、哀愁を帯びた歌・ファドを聞かせる店があり、大小さまざまな何百年経つのだろうかという色とりどりの建物が連なります。黄色の小さな路面電車がそれらを縫って急カーブで坂を上り下りしています。

小さな路面電車が走るリスボンの街(撮影=小柳淳)

著者の青目海(あおめうみ)は長くポルトガル南部の漁師町に住み、時々列車でリスボンに出かけたといいます。その近すぎず遠すぎずの距離感が、優しくもやや客観的な目でリスボンを語れる理由かもしれません。そしてアズレージョという美しいポルトガルタイルをまとう石造りの建物や石畳の舗道を、著者と一緒に歩いている気分になってきます。角が丸まった石畳の道、紫の花をつけるジャカランダ、サクランボのリキュールを売るバー、坂の途中にある狭いレストラン。小さな街の魅力が語られます。

アズレージョをまとう建物(撮影=小柳淳)

河口近くで幅の広いテージョ川をフェリーで渡ると対岸のカシーリャス。上陸してモザイクを敷いた広場を歩いていると、一瞬マカオに来た気がしました。そう、マカオは約400年もの間ポルトガル居留地だったのです。

街々書林 Books & Gallery

2023年6月、吉祥寺の中道通りにオープンした書店。「旅する本屋」を掲げ、旅に関する本や雑誌、雑貨を販売。店内奥には貸ギャラリーも。