手仕事の魅力がぎゅっとつまった民芸品のお店「つみ草」

吉祥寺駅から末広通りを進んで徒歩6分の場所に、懐かしくて安心するような、ついつい足を踏み入れたくなる佇まいのお店があります。ゆっくり行きたいとずっと思っていたこのお店は民芸品を取り扱っている器と小道具のお店「つみ草」。中に入ると存在感のある器や籠が目に飛び込んできます。今年15年目を迎えたつみ草の店主、小林さんにお話をうかがってきました。

木枠の引き戸と床材から決めたお店づくり

元々プロダクトデザインのお仕事をしていた店主の小林さんは「以前から作家さんの作った器などが好きだったんだよね」と話しはじめてくれました。小林さんは最初、都が主催する独立支援講座に参加。「もう40代後半だったからさ、悠長なこと言ってられなくて、お店の図面は自分で引いたよ」と、それまでのデザインの経験も活かし、講座受講後、半年でお店をオープンしました。「物件探しには少し時間がかかったけど、偶然この場所を自転車で通りかかったら解体工事をしていたんで、大工さんに『ここなくなるの?』って聞いたんだよね。それで不動産屋さんに申込みをして」 続けて「かっこいい雰囲気っていうよりは、わさっとした雰囲気のお店にしたくて落ち着いた場所を探していたから、この場所を通りかかった時はピッタリだと思ったよ」と当時を振り返ってくれました。

「お店のオープン準備と仕入れを同時にしなくちゃいけなくて、自分が昔からファンだった作家さんに声をかけたりしたんだけど、みんな今はやめた方がいい、売れないよって言うんだよね」 と笑って話してくれましたが、オープンしたのはちょうどリーマンショック直後。小林さんのお店の開店を心配する方もいらしたようです。しかし、小林さんはお店のイメージを膨らましながら準備を進めていきました。「入り口の引き戸があるでしょ。お店を古民家っぽい感じにしたかったから、あの引き戸の扉をつけたくて、引き戸に合わせて入り口を作ってもらったの。大正時代のものだよ。あと床も。これは新潟の古材で、これをつけられるようにしてもらったんだよね」とご自身のこだわりを大切に、つみ草を作りあげていきました。

土瓶作りは一人前の証。果てしない職人の世界が広がる民芸品の世界

数多くの作家さんや窯元さんとつながりの深いつみ草ですが、焼物の器など、小林さんが窯元へ何度も通い、やっとお店に置けるようになったというお話もありました。大量生産される商品ではないということもあり、仕入れるためには作り手さんとの絆や信頼関係が大切になっています。

「この土瓶の取っ手の部分、何が違うか分かる?」と小林さんに聞かれました。

よく見てみると、土瓶本体と取っ手の繋ぎ方が違うようです。左の土瓶は取っ手の端を本体の外側から内側に挿して止めてありますが、右の土瓶は内側から外側に挿して止めてあります。「内巻きと外巻き、取っ手のカーブも四角っぽいのか丸っぽいのか、作り手さんの好みやセンスで変わってくるから、その違いを見るのもおもしろいね」と、小林さん。たしかに民芸品ならではの細かい部分に注目すると見え方がガラリと変わります。お皿や湯呑みなどと違い、土瓶はパーツが分かれていたり、取っ手の部分など、異なる素材を組み合わせることも多いので難易度がとても高く、「土瓶を作れたら一人前」と言われるそう。作品が完成に行き着くまでの職人さんの試行錯誤や想いを想像すると日本の民芸品の素晴らしさが改めて感じられます。「果てしない職人の世界があるよ」と小林さんもその技術やこだわりの凄さを称賛していました。

予備知識を持って民芸品を楽しむのも味わい深いものですが、「若い人が直感で商品を手に取るのもおもしろいね。こんな渋いの選ぶんだ!って驚くこともある」と小林さん。仕入れ先を一から開拓し土を採るところから知っている小林さんから見えるつみ草の景色は、お客さんが商品を購入していくことで鮮やかになっていくように感じました。

店主小林さんの「自分で直接仕入れに行く意味」とは

窯元の多くは、適した土が多く採れる西日本に集中しており、小林さんは自分の車で直接仕入れに向かいます。「月に1回は仕入れの旅にでてるよ。そこでの発見や出会いも本当におもしろくてさ!」と話を続けてくれました。「ふらっと道の駅に入ったりすると籠とか売ってたりしてさ。これはどなたが作っているんですか?って聞いて、直接作っている人を訪ねに行ったりする。」「ある時は山の中の住宅を1軒1軒ピンポーンって聞き込みしてたら不審者と思われて、おまわりさんがきちゃったんだよ」と、驚きと同時におもわず笑ってしまうエピソードも。それでもこれ!と思える作品に出会えた時は「こんなすごいものを作れる人がいたんだって感動する!」と目を輝かせて話してくれました。「土で作られたものと違って、籠とかザルとかはその地域の特製が顕著にでるね。山の民の仕事は遠いとこまで伝わらないからさ」と、こちらも土瓶と同じく見え方が一変。それぞれの地域の歴史を感じることができるのも民芸品の魅力です。

旅先で出会った作品や人とはできるだけ直接やり取りをしているという小林さん。「梱包するのも手伝えるし、無駄がなくなる。窯元の人も手間が減るし、送料もかからないから、その分お店では現地に近い値段で売れるんだよね。」なるほど、つみ草の商品のお値段が同じようなものを取り扱う扱うお店に比べ良心的な印象なのも納得です。

「細かいところにその地域の環境や歴史が反映されていて、作られている場所それぞれの特徴が顕著にあらわれている。その特性が潜んでいる感じをみるのも民芸品のおもしろさ」と民芸品について話す小林さん。つみ草では、作品が作られている現場の空気も一緒にお店に並んでいるように見えました。最初にお店に入った時の、商品の存在感の正体はきっとこの空気感。つみ草で店主の小林さんのセンスと職人さんの想いが詰まった作品に囲まれ、本当の民芸の醍醐味を味わってくださいね。その奥深さと日本の文化の素晴らしさにきっと感動します。