ありがとう吉祥寺プラザ特集!(前編)ジブリ作品ではじまりジブリ作品で幕を下ろした、吉祥寺プラザとジブリの素敵な“縁”

先月1月31日に惜しまれつつも閉館した映画館、吉祥寺プラザ。私も幼い頃から吉祥寺プラザで映画を観ておりました。オレンジのアクリルの取っ手が付いた扉、スクリーンをつなぐ階段、座席指定のない昔ながらの街の映画館…。大型のシネコンとは異なる、小さな映画館ならではのあたたかさがありました。きっと吉祥寺のみなさんも吉祥寺プラザへの思い出があることでしょう。地元の人に愛された映画館である吉祥寺プラザをぜひ特集したい!吉祥寺プラザの思い出を残したい!あふれる想いをそのまま吉祥寺プラザにぶつけたところ、支配人の方に快くインタビューに答えていただけました。前編後編の2本立てでお届けします!

『君たちはどう生きるか』と『もののけ姫』で締めくくった最終プログラム。「スクリーンで観る映画は格別」

吉祥寺プラザの最後のプログラムとなった『君たちはどう生きるか』と『もののけ姫』。2024年1月19(金)からはじまり、最終日の1月31(水)までの計13日間上映されました。吉祥寺プラザの有終の美を見届けようと多くの方が訪れ、閉館のお知らせや最終上映のプログラムは話題にもなりましたよね。支配人の方に最後の13日間の様子を聞くと、とにかくすごい反響だったようです。

支配人「最後の1週間は、とにかくたくさんのお客さまにご来場いただけたんですね。13日間だったんですけど、9,000人以上の方がいらっしゃって。もう少しで1万人だったんですけどね(笑)。 1月の末日まではほぼ各回満席。チケットを手に入れる方法が、ご存じの通り劇場窓口で購入してもらう昔ながらのやり方で座席予約がないものですから、お客さまにずいぶん並んでいただくことになってしまいました。上映が始まると、すぐ次の回の方が待たれるという感じで。(お待ちいただく)心苦しさの方が先に立ちましたけど、やっぱり嬉しかったですね。」

2週間弱という短い期間で、のべ1万人弱の方が訪れたというのは本当に多くの人に愛されてきたという歴史を感じます。そして、支配人の方が特に印象的だったと語るのが来場者の年齢層。

支配人「今回は若い方が圧倒的に多かったです。みなさんテレビでの放送でも『もののけ姫』を観ているかと思うのですが、まさかこんなに来てくれるとは思いませんでした。若いお客さまに、スクリーンで観る映画の良さっていうのを再確認してもらうきっかけになっていたら嬉しいですね。そしてその再確認していただく作品が、ジブリさんのものというのがとても嬉しい。実際、私自身が驚くぐらいテレビで観るものとスクリーンでかかる『もののけ姫』はまったく別物だった。加えて、自分が勤める映画館で慣れ親しんだスクリーンで観るというのも格別でした。やっぱり映画館のスクリーンと音響で見る作品っていうものが、こんなにも違うんだってあらためて実感しました。以前ジブリさんがやられていたキャンペーン(2020年6月26日から行われたジブリの旧作4作品を劇場上映した企画)の“一生に一度は映画館でジブリを”っていうのもすごくいいキャッチコピーでしたよね。」 昨今、映画の視聴スタイルも多様化して、小さなスマホの画面で観ることも多くなっているかと思います。だからこそ、映画館の大スクリーンで観る映画は非日常に連れていってくれる特別な体験ですよね!あぁ、書いていたら無性に映画を観に行きたくなってきた…!

吉祥寺プラザの推しポイント

編集部が吉祥寺プラザにうかがうと写真も快く承諾してくれました! 編集部が独断と偏見で選ぶ?吉祥寺プラザの推しポイントを写真とともにご紹介! マニアック?なセレクトが続きます(笑)

その1 入り口の取っ手

大型のシネコンの入り口は大抵自動ドアで大きく開放されていますが、昔ながらの映画館にはきちんと扉がありました。吉祥寺プラザの扉には大きなアクリル製のオレンジ色の取っ手がついています。少し重い扉には映画を見るぞ!というワクワク感が詰まっている気がします。 「この扉のファンだと言う方をSNSで見かけました(笑)。」by 支配人

その2 昔ながらの床タイル

編集部と同じく支配人の方もこの床がお気に入りだったそうで、館内のリフォームの際もそのまま残されたとのこと。床を夢中で撮影していると、支配人の方が「階段もとってもいいんですよ!」と更におすすめを教えてくれました! 支配人「この階段に付いている滑り止めなんですが、真鍮製なんですよ!なかなか珍しいようです。階段を登る時の音がいいんですよ〜」 真鍮といえば金管楽器にも使われる素材。音がいいのはそのせいかも?!

その3 座席

ふかふかの座り心地のよい赤い座席はまさに映画館そのもの! 座席数は216席で定員数は263。今では珍しい立ち見も可能でした。吉祥寺プラザの最初の上映作品『もののけ姫』公開時は1,800人来場している日があったとか!!

吉祥寺プラザとスタジオジブリの素敵な関係 キキがはじめて空を舞ったのは「吉祥寺プラザ」

吉祥寺プラザのはじまりは『もののけ姫』の上映からでした。そして閉館を迎えた際のプログラムは『もののけ姫』と宮崎駿監督の最新作『君たちはどう生きるか』。開館と閉館のプログラムが同じというなんとも奇跡のような吉祥寺プラザの歴史ですが、どうやらスタジオジブリとの素敵な“縁”があったようです。

支配人「最終プログラムの上映にあたって、思いがけないことだったんですが、ジブリさんに繋いでくださる方がいらっしゃった。いろんなご縁が重なって、最終的にはジブリさんそのものが権利を持っている『もののけ姫』の上映を許可してくださった。あんまりないことですよね、過去の作品をこういった小さな映画館に出してくれるっていうことは…。かつてジブリさんは、吉祥寺にスタジオがあったんですよね(編集部注:1985年から1992年までの7年間。スタジオジブリの公式ウェブサイトにも吉祥寺の貸しビルのワンフロアからはじまった記述があります)。今みたいな大きな会社になる前、試写室を持っていない時代が長かった。そういう時代のジブリの初号試写(映画の関係者のみで行われる映像チェック)が行える場所のひとつが吉祥寺プラザ(編集部注:1985年から1992年当時は吉祥寺プラザの前身「吉祥寺東映」)だったんですよね。当時を知るアニメ制作会社の関係者の方に確認させてもらったから間違いないことなんですけどですね(笑)。キキがはじめてスクリーンで動いたのはここ(吉祥寺プラザ)だよ、と。キキがはじめて空を舞ったのは吉祥寺プラザだと教えてくれました(笑)。ジブリさんの方でも、そういったご縁を覚えてくださったんだと思いますね。」

なんというこころ温まるエピソードなんでしょうか…。吉祥寺にジブリのスタジオがあったことは有名ですが、まさか吉祥寺プラザが試写の場だったとは本当に驚きです。

支配人「ジブリさんの広報の方と今回はじめてやり取りさせていただいたんですが、ジブリと縁のある吉祥寺プラザなら、ということで今回上映が叶ったのだと思います。こんな小さな映画館の最後に、ジブリさんの、しかも『もののけ姫』が上映できたということが私自身生涯忘れられないような思い出になったし――なんていうんでしょうか――大げさにいえば、やっぱり誉れですよね。最新作の『君たちはどう生きるか』も本当にたくさんの方が来てくださって。興行は開けてみるまでどうなるかわからないんですけど、こういう形で締めくくれて。やっぱり感謝ですよね。そこに全部繋がっていきます。上映を叶えてくださったジブリさんをはじめ、各関連会社さん、そしてそれに答えてくださったお客さま。どちらかが欠けていてもこういう最後にはならなかった。上映を叶えてくださった方の顔と、寒空のもとを長時間並んでくださったお客さまの顔は、これからも私の中で思い出になってずっと忘れないと思います。」

吉祥寺プラザの締めくくりがジブリ作品だった理由、そしてそこにいたるまでのエピソード。映画を通じてジブリと吉祥寺プラザの温かいやりとりに感動してしまいました。吉祥寺プラザがいかに映画人とお客さんに愛されていたかが垣間見えるお話でした。 次号では、閉館した現在も劇場の入り口に掲げられている、吉祥寺プラザのスタッフがおすすめする映画作品や、それに対する支配人の方の思いなどについてお届けする予定です!

吉祥寺プラザ

  • 住所

    〒180-0004 東京都武蔵野市吉祥寺本町1丁目11−19

〈吉祥寺プラザ〉
東京都武蔵野市吉祥寺本町1-11-19

【写真=編集部撮影】