吉祥寺への再投資を。「まちづくりが自分のカラーになれば」 小美濃安弘市長インタビュー

(取材日:2024年1月10日 武蔵野市市長室にて)

週刊きちじょうじ恒例!新市長インタビューをお届けします。昨年末に執行された市長選で新市長に就任した小美濃安弘氏。小美濃市長が公約に掲げていた「吉祥寺への再投資」や「まちづくり」、そして吉祥寺の思い出などを中心にお聞きしました。

市長が今年1年で取り組みたいことは?

――まずは、市長になられたということで、今年1年で取り組みたいことは何でしょうか。

市長に立候補したきっかけの一つは、武蔵野市民14万の命を守る覚悟を持たせていただいたってことなんです。今年のはじめに起こった能登地方の地震は、大変な被害になってしまいました。今年まず取り組むのは、市民の命を守るということに直結する「首都直下地震」に対する政策です。武蔵野の場合、大きな川も山もありませんが地震だけは本当に怖いんですよね。阪神・淡路大震災や東日本大震災を見ても、家具の下敷きになって亡くなられてる方が大変多い。なので第一の政策に、家具転倒防止器具を皆さんにつけていただきたいということを位置づけました。武蔵野市では65歳以上の方などに関しては今までも行っていたんですが、できるだけ多くの方に付けていただきたい。それは本当に今一番思っていることです。

――今日(2024年1月10日)も、ちょうど吉祥寺駅で街頭募金を行っていましたよね。

私も10分間だけでしたが、皆さんを激励させていただきました。昼休みしか時間が取れなかったので、少しの間でしたが、一緒にお声がけをさせていただいて。やっぱり今何かしたいけど、何をしたらいいんだっていう市民の方がずいぶんいらっしゃるんじゃないかなと思うんですよね。

吉祥寺パークエリアは、「面」でのグランドデザインを。

――週刊きちじょうじは吉祥寺の街のメディアとして活動していますので、吉祥寺の街についておうかがいしたいなと思っています。まず、一つが公約にも掲げていた吉祥寺南口のパークエリア1のまちづくりに関して。特に、武蔵野公会堂の老朽化に伴う建て替えについて、どのようにお考えでしょうか。

今のパークロードはバスと人との混雑で危ない状況です。加えて、井ノ頭通りは緊急輸送道路に指定されている。仮に首都直下地震が来て道路が封鎖されると、大切な支援物資も送れなくなってしまいます。となると、もう少し広い意味での再整備に取り組まないと、南口はうまく機能しない。 もっと言うと「面」として南口のグランドデザインを作るべきだなと思っているんです。その中で、武蔵野公会堂はどういう位置づけなのか。武蔵野公会堂はあの一帯で唯一の大規模な市有地なんです。公会堂だけで(改修や建て替えを)考えるっていうのは、僕はあまり賢明ではないなと思っています。なかなか時間がかかることだと思いますけどね。この4年間でできる限り道筋だけはつけていきたいなと思います。

オレンジ色の部分がパークエリアと呼ばれる部分

――具体的にまちづくりのための道筋が作れたらいいなということですね。

そうですね。パークエリアについては現段階でそういうビジョンがないので。グランドデザインができれば―第1期はおそらく駅前広場のあたりになるんじゃないかなと思いますけど―、今まで二の足を踏んでた地権者の方たちも、それなら協力しようって話になってくるのではないかと。なので、まずは南口全体の大きなまちづくりの画を描くことからですね。そういうことを、いろいろな学識を持った方や地域の方々を交えて、もっと議論しなきゃいけない。

市民参加のために、まずは情報公開からやり直す

――いろんな方たちと意見を交わしていきたいとのお話がありました。公約に掲げていた「隠しごとのない市政」を目指すためにどのようなことを考えていますか。

まず、なぜそういう話になったというと、全国的にも大きく取り上げられた住民投票問題2にあるんです。(条例の)良し悪しは別として、それがほとんどの市民に伝わっていなかったのが、一番の問題だった。住民投票は市民の武器です。市民の武器である住民投票について、市民が全然知らなかったのは本当に大きな問題。意見交換会も2回やったけれど、コロナの緊急事態宣言中だったんですよね。
市の他の部署が「市民の皆さん、外出しないでください」っていうアナウンスを流しているのに、違う部署が意見交換会をやってるわけです。当然人なんか来ない。そういう中で話を進める姿勢が非常に問題だなっていうふうに思っていて。
やっぱりこれは、(いったん住民投票条例案の議論は)凍結していきたい。もっというと、武蔵野市では「自治基本条例」という条例があるんですよね。その中には、市民との情報共有とか市民参加っていうことが書いてある。具体的に言うと、「政策を作ってる段階から市民に対してどんどん情報を出していきましょう」ということ。だから、具体的に「隠しごとのない市政」を進めるならば「自治基本条例」に則った市政を着実に進めるってことですよね。

若い世代にも届いた実感がある

――今回の選挙戦はとても接戦でした。武蔵野市には様々な世代の方が暮らしていますが、特に若い世代に対してはどのようなことをやっていきたいですか。

僕は32歳と30歳の子どもがいて、この間、孫も生まれて子育てが一段落した世代です。自分の中の実感として、中学生から大学生ぐらいの世代に対して、どういうふうに捉えていけばいいのかなという感じが正直あった。ただ今回の選挙では、SNSやYouTubeなどを相当駆使したので、そういう人たちにも見ていただいたかなとは思っていて。朝に駅で挨拶をしていたら、大学生ぐらいの方が声をかけてくれて。今までこういう方からの声ってなかったよなぁと。なので、そういうもの(SNSやYouTube)を使っていろんな意見を言っていただいて、政策に繋げていければと思います。自分も61歳になってしまったから、若い世代の人たちのための政策ってちょっとつかみづらいところがあるけど、そうは言ってられない。いろんな媒体を使って、意見収集をしたり、積極的に(街に)出ていってお話をうかがうなどして、政策に反映できるといいかなっていうふうに思っています。

武蔵野市、吉祥寺は「市民のパワー」を感じる

――生まれが吉祥寺ということで、吉祥寺についての思い出があればお聞かせください。

仕事の都合で埼玉に行ったことがあったんですね。大学卒業してすぐ、埼玉で就職をして寮生活をしていました。9年間いたんですが、改めて(吉祥寺に)帰ってきて、やっぱり本当にいい街だなっていう思いがある。市民の人がね、すごいパワーがありますよね。
ちょうど議員に落ちて浪人中だった時期、法政大学第一中・高等学校の跡地に高層マンションが建つという話があった。そのときは街の人たちから「住宅街を守れ」っていう声が上がって。僕も浪人中だったのでその時の運動に参加させてもらったんですが、すごいパワーでしたね。それこそ主婦の方も参加されて。もちろん専門の弁護士さんも市民にはいたし、建築家の人もいたし、そういう全ての英知を駆使して、最終的には自分たちで地区計画って計画まで作っちゃって、市に提案までしていた。結果的にそれは却下されちゃったんだけど、事業者もそういう意見を聞き、市からの仲介も入って、高層マンションの階数を減らすことになった。市民にはそういうパワーがある。

――そういうことを若いときに肌で感じられていたんですね。

いや〜ほんとうに感じましたよね。文化芸術でもそうですよ、いろんなことで市民が中心になってやってますから。そういうところは武蔵野市の特徴なんじゃないかな、吉祥寺に限らずね。

市長が考える子育て支援について

――お孫さんが生まれたということでしたが、乳幼児に対しての政策についてどのようなことを考えていますか。

孫が生まれたんですが、少し小さく生まれてきたので、母子ともに病院に通わなくてはいけなかった。僕は当時市議会議員だったから、比較的時間があったので送り迎えができたけど、病院に行かなきゃいけないお子さんを連れて、電車とバスを乗り継いで行くって大変じゃないですか。タクシーを使えばいいじゃないかって話もあるんだけど、もし若い夫婦だったらそんなにお金があるわけじゃないですよね。それで思ったのが、レモンキャブ3の利用。レモンキャブは低額で、運転してる人が地域の方。乳幼児、というより乳幼児をかかえたお母さんへの対策ですが、助けになるんじゃないかということで、今回子育て世代でも利用できるようにすることを公約の中に入れさせていただきました。

――子育てに関連する政策というと、「01234を境地区に」という政策も公約に掲げています。

吉祥寺に「0123」ができ、中部地区に「はらっぱ」(0123はらっぱ)ができた。じゃあ何で境地区に無いのかっていうのはずいぶん前から言われていて。そういう声があったので、(政策に入れても)いいんじゃないのかなと。桜堤・境地区には、未就学児向けの子育てひろばはありますけれども、「0123」のようなシステムがないので。「0123」そのものになるかどうかはわからないんですが、そういう機能を持たした何かはやっぱり必要なんじゃないのかなと。研究して前に進めたいなと思ってます。

――「0123」は今、開園時間が月曜日から土曜日の午後4時までですが、時間の延長なども考えていますか?

そういうのも、利用者の声を聞きながら、フレキシブルにやってもいいんじゃないかなと思いますね。

もし自分のカラーが出せるとするなら「まちづくり」

――吉祥寺に住んでる方、武蔵野市に住んでいる方にメッセージがあればお願いします。

さきほど、南口のお話をさせていただいたんですけど、実は北口のロータリー5ができて35年以上経つんです。少しずつ手を入れてきてはいるんですけど、抜本的には手を入れてきていない。はな子(ゾウのはな子像)はできましたけどね(笑)
武蔵境の駅舎や広場が一段落したので、次は吉祥寺に再投資かなと思っていて。都市間競争ってよく言われるんですが、やっぱり来街者の方が、吉祥寺に行きたくなるような、そういう街にしていかなければならないと思います。特に吉祥寺はそういう力を持った街でもあるので、ブランドを下げないようにしていきたい。「来てよし、住んでよし、商売してよし」、そういう吉祥寺にしていかないといけないかなと。そのためには、もうそろそろ吉祥寺に再投資をしていかなきゃいけないかなって思っていますね。

――最後に、市長として「自分のカラー」を出すならどのような部分でしょうか。

僕はやっぱり建築学科出身なので、18年間ほとんど進んでいなかったまちづくりに力を入れていきたいですね。実は「再投資」ってそういうことで、やはりまちづくりには一番お金がかかるので。なので自分のカラーがもし出せるとしたら、まちづくりの部分かな。自分の得意分野でもあるので。ただ、まちづくりってすごい時間がかかるんで(笑)、すぐに目に見えるかどうかはちょっとわかりません。後から歴史を振り返ったとき、あそこでこれをやってたから、今こう繋がってるねっていうような――グランドデザインとか、公会堂の位置づけだとか――、後から検証されるのが「まちづくり」なんですよ。すぐには結果が出ないんですけど、せっかく今そういう立場にならせてもらったので、進めていきたい。このまま何もしなければ、吉祥寺は廃れちゃいますよ。「あの時あの手を小美濃が打ってたから今があるんだね」っていうような、まちづくりをしていきたいなと。

――メッセージありがとうございます。

こちらこそ、ありがとうございました。また何か機会がありましたら、ぜひ。今度は仕事じゃなくて、もう少しプライベートな質問でもいいですよ(笑)

週刊きちじょうじの名誉編集長と

(写真=2024年1月10日編集部撮影)

  1. パークエリア…吉祥寺駅南口〜井の頭恩賜公園周辺の地域
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  2. 住民投票問題…前市政下で2021年に議会に提出された住民投票条例案を巡る議論。住民基本台帳に3ヶ月以上登録されている18歳以上なら国籍を問わず投票ができる条例案が注目を集めた。
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  3. レモンキャブ…バスやタクシーなどの公共交通機関を利用することが困難な、高齢の方や障害のある方(要介護者や障害者手帳取得者等)の外出を支援する武蔵野市のサービス
    https://www.city.musashino.lg.jp/kenko_fukushi/shogaisha_fukushi/shien_josei/unchin_hojo_josei/1006515.html
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  4. 0123…0歳から3歳までの乳幼児とその親を対象に、子どもを遊ばせたり、親同士で子育てについて交流ができる施設 http://mu-kodomo.kids.coocan.jp/0123/index.html
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  5. 北口のロータリー…吉祥寺駅北口駅前広場のこと。1987年完成。 ↩︎