街々書林の今月の旅する一冊

街々書林の今月の旅する一冊
吉祥寺中道通りに位置する「街々書林 Books & Gallery」の店主であり、旅に関する本を執筆してきた「旅行作家」でもある、小柳淳さんによる月イチの連載コラムです。本の世界の「旅」を、どうぞお楽しみください。
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「男はつらいよ」を旅する 〜街々書林の今月の旅する一冊

今月2023年2月からはじまった「街々書林の今月の旅する1冊」。
吉祥寺中道通りに位置する「街々書林 Books & Gallery」は、旅にまつわる本や雑誌、雑貨を販売しているユニークな書店です。このコラムは、街々書林の店主であり旅に関する本を執筆してきた「旅行作家」でもある、小柳淳さんによる月イチの連載コラムです。本の世界の「旅」を、どうぞお楽しみください。

「男はつらいよ」を旅する

「男はつらいよ」を旅する
川本三郎 著
新潮社
価格:1,540円
発売日:2017年5月26日
ページ数:288ページ
書籍詳細

フーテンの寅こと車寅次郎はフラリと日本中を旅した、昭和・平成の旅人だ。葛飾柴又帝釈天の草団子屋「とらや」とその街をピュッと飛び出したかと思うと、フラリと帰ってくる。その間、北海道から沖縄まで、ローカル線の列車や路線バスに揺られ、フェリーに乗り、旅の暮らしをする。そしてときにマドンナと出会い、ほのかな恋心をいだき旅の行方が変わったりする。寅さんが歩くのは、鄙びた里や川べり、漁港や谷あいの集落が多い。むろん山田洋次監督の映画『男はつらいよ』の中で、だ。

津山 美作津山の街並(第48作『寅次郎紅の花』) 撮影=小柳淳

その寅さんの足跡、ロケ地を訪ねるこの本は「シネマ紀行」と自称し、映画を追体験するように文章から各地の光景が浮かび上がる。全作品を見ていなくても、何故か見たような錯覚に吸い込まれてゆく。この映画はどの作品も寅さんの恋と旅先での失敗やドタバタ、そして葛飾柴又の家族の優しさ。ワンパターンなのだが、そこが愛すべき寅さん映画の魅力でもある。寅さんはといえば、活きのいいタンカ、情趣溢れるセリフ、義理と人情とをわきまえた身の処し方、ひとり粋がった姿勢を見せる。おっちょこちょいだけれど、ふとこれは素敵でカッコいいと感じてしまうときがある。最初のころの作品にはローカル線に蒸気機関車が走っていて、低音の響きや白い蒸気、黒い煙が映像にアクセントを添えた。そして日本各地の地味だけれど美しい風景が記録映画のように映像として残された。鄙びた土地のみならずかつての観光地もだ。そのいくつかの場面に立ってみたくなって、ふと旅立ってしまいそうになる。事実、私はある場面に魅かれて岡山県は美作地方の津山に旅をした。そんな誘惑のような素敵な旅への誘いがこの本に詰まっている。

丹後伊根 丹後伊根の舟屋(第29作『寅次郎あじさいの恋』) 撮影=小柳淳