アジア・中東の装飾と文様 〜街々書林の今月の旅する1冊

「週刊きちじょうじ」と「週刊きちじょうじオンライン」で毎月第1週にお届けしている「街々書林の今月の旅する1冊」。 「街々書林 Books & Gallery」は、旅にまつわる本や雑誌、雑貨を販売しているユニークな書店。吉祥寺中道通りに位置しています。街々書林の店主であり旅に関する本を執筆してきた「旅行作家」でもある、小柳淳さんによる月イチの連載コラム、本の世界の「旅」をどうぞお楽しみください。

アジア・中東の装飾と文様

アジア・中東の装飾と文様
海野弘 著
パイ インターナショナル
価格:3,080円
発売日:2023年5月19日
ページ数:416ページ
書籍詳細

表紙から最後まで美しい本! 砂漠の中央アジア、都市文明のトルコ・ペルシア、中華文明、インド、東南アジアとタイトルどおり広大なエリアの装飾と文様を紹介する。ページをめくるたびに新たな美が目に飛び込んでくる。デザインだけでなく、地勢や都市の歴史などにも言及する重厚な本。

第1章は「文様のロード(道)」がテーマ。シルクロード、三蔵法師の道、マルコ・ポーロの道などに沿った構成。東の終点は奈良、西はイスタンブールだが、飛んでロンドン大英博物館も。第2章は各地の文明と装飾文様の歴史をたどる。巨大なペルシャ文明の遺跡や強大だったオスマン帝国の建築と宝物。現イランの土地に重なる紀元前からのペルシャ・パルチアの文化と宗教。それはゾロアスター教であったり、オリエントの神話であったりもする。中央アジアではそれが仏教の下地にイスラームが載った蓄積になる。インドに入ると一転して濃厚稠密なヒンドゥー美術が現れる。

シルクロードの東の終点、奈良(撮影=小柳淳)

そして第3章は装飾文様の形と長い年月をかけての伝播。陶磁器、調度品、織物・刺繍と服飾品、建築装飾など品物の形や素材に迫る。これでもかと多彩なデザインが溢れている。青空に負けまいとするかのような青タイルのドーム建築、色彩乏しい砂漠地帯で衣服や織物に鮮やかな赤や黄があることに目を見張る。かと思うと砂の薄茶と同化しそうな色の石や泥の建築は、そこに深く刻まれた紋様が美しい陰影を見せてくれる。延々と果てしなく続く植物文様、そして文字までも美しくアートに昇華させてしまう。宝物の1冊になる。

青空と競うようなオアシスの青タイル、サマルカンド(撮影=小柳淳)