名取事務所公演『ペーター・ストックマン~「人民の敵」より』

常に現代的な戯曲として存在し続けている『人民の敵』。新型コロナウイルスの感染拡大が収まらない今、この作品で描かれる科学と政治の混乱は身近なテーマとなっている。町の温泉の汚染を告発するトマス・ストックマン医師と、彼の兄であり、告発を潰そうとするペーター・ストックマン町長。メディアと町民を巻き込んだバトルは兄の勝利で終わるが、幕切れ、何もかも失った弟は妙に清々しい様子で未来の希望を語る。一方、兄にはどこか苦々しさを抱えて終わる。

今作はそんな町長・ペーターに光を当て翻案。一連の出来事を彼の目から捉え直す。彼が守ろうとしたものはなんだったのか。そしてそれは果たせたのか。それを知ることで現在の混乱の根源を探る。また、より現代の縮図となるよう男女比を変更し、作品の新たな可能性を探る。