演劇は言葉だけじゃない。チェルフィッチュ『宇宙船イン・ビトゥイーン号の窓』吉祥寺シアターにて上演

普段話している言語と違う言語を話すことになったとき、あなたはどう思いますか? 「うまく話せなかったらどうしよう」「変な言葉遣いをして笑われたら恥ずかしい」……そんなふうに考えるかもしれません。

ですが、会話に必要なのは「伝えたいことを伝える」ことですよね。発音や文法が正しくなくても、言いたいことが聞き手に伝われば会話としてはOK。 大切なのは「言葉の流暢さ」ではなく、「伝えようとする姿勢」といえるかもしれません。
これは演劇においても同じこと。演劇において大切なのは「本質的な演技力」。言葉の流暢さは必ずしも最も重視されるものではないのです。

ならば日本語を母語としない人にも日本語での演劇は可能なはずですが、日本の演劇の場では「日本語の正しさ」が評価に影響を与えている現状があります。本日はそんな日本演劇の現状に疑問を投げかけ、日本語の可能性をさぐる演劇『宇宙船イン・ビトゥイーン号の窓』をご紹介します。

日本語を母語としない俳優との創作がひらく「演劇と言語」の未来とは

チェルフィッチュ『宇宙船イン・ビトゥイーン号の窓』メインビジュアル

『宇宙船イン・ビトゥイーン号の窓』は吉祥寺シアターにて2023年8月4日(金)から8月7日(月)まで演劇カンパニー「チェルフィッチュ」さんによって上演されるSF演劇です。

劇の舞台は重大なミッションを果たすべく宇宙を漂泊する「イン・ビトゥイーン号」。載っているのは四人の乗組員と一体のアンドロイドです。
舞台の上では、内容的な〈リアリティ〉と形式的な〈リアリティ〉、どちらの〈リアリティ〉も複数、並列的に提示されます。
例えばセリフ。俳優によってある言語で発されるセリフの意味・機能は、『宇宙船イン・ビトゥイーン号の窓』では複数提示されるのです。
いくつものリアリティが交差する様は、あたかもマルチヴァースのようだ、と言えるかもしれません。

そして、この演劇の大きな特徴は日本語を母語としない俳優さんが日本語を使って演じるということ。このことが『宇宙船イン・ビトゥイーン号の窓』では重要な意味を持っています。

岡田利規さん

「チェルフィッチュ」を主宰する岡田利規さんによると、このノン・ネイティブ日本語話者との演劇プロジェクトは、ドイツでの俳優の評価基準と「一般的に正しいとされる日本語」が優位にある日本語演劇のありようへの疑問から構想が生まれたと言います。
岡田さんはドイツの劇場の創作現場で、非ネイティブの俳優が言語の流暢さではなく本質的な演技力に対して評価されるところを目の当たりにしたそうです。
一方で、日本語が母語ではない俳優はその発音や文法が「正しくない」という理由で、本人の演劇的な能力とは異なる部分で評価をされがちである、という現状があるといいます。

この2つを踏まえて、「チェルフィッチュ」さんはワークショップやトークイベントを通してプロジェクトへの参加者と出会い、考えを深めてきました。その参加者からオーディションで選ばれた4名を含む俳優とともに創作・上演されるのが『宇宙船イン・ビトゥイーン号の窓』なんです(ワークショップのレポートはコチラで公開されています)。

岡田さんは「『宇宙船イン・ビトゥイーン号の窓』は、『日本語を母語としない俳優が日本語で演じる演劇』と聞いて多くの人がイメージするとおぼしきもの、とはおよそ異なるすがた・かたち・はたらきを備えた演劇作品です」とコメントしています。

いわゆる「正しい日本語」に囲まれて生きる私達は、もしかしたらその言葉の意味ばかりに意識を向けてしまっているのかも知れません。ですが舞台の上で言葉は一つの要素に過ぎず、俳優さんの身振り手振りや表情も私達に〈リアリティ〉を感じさせてくれるものです。
舞台上にある要素を見て・聴いて・感じて、パフォーマンスからその先を想像しながら観劇してみてくださいね。

【チケット完売】子供連れや観劇が不安な方へ向けた鑑賞マナーハードル低めの回も用意

『宇宙船イン・ビトゥイーン号の窓』の公演では、8月5日(土) 13:00の回の客席を「鑑賞マナーハードル低めの回」とされています。
これは「子供がおしゃべりしちゃうかも」「障がいがあって上演中に休憩したくなるかも」など、演劇は観たいけど心配なことがあるという方にも気兼ねなく観劇できるために用意されたもの。客席でジッと静かに座っていることが観劇の基本的なマナーですが、これがハードルで観劇から足が遠のいてしまっている方はぜひこの「鑑賞マナーハードル低めの回」を利用してくださいね。

「チェルフィッチュ」とは

チェルフィッチュ × 藤倉大 with クラングフォルム・ウィーン
『リビングルームのメタモルフォーシス』
©︎Nurith Wagner-Strauss

演劇カンパニー「チェルフィッチュ」は演劇作家・小説家の岡田利規さんが全作品の脚本と演出を務める演劇カンパニーとして1997年に設立されました。
2007年『三月の5日間』(第49回岸田國士戯曲賞受賞作品)で初めての国外進出を果たして以降、アジア、欧州、北米にわたる90都市以上で上演。フェスティバル・ドートンヌ・パリ(フランス)、ウィーン芸術週間(オーストリア)など世界有数のフェスティバル・劇場の委嘱および国際共同製作による創作も多数行っています。

チェルフィッチュ『宇宙船イン・ビトゥイーン号の窓』

  • 開催日
    2023年8月4日(金)〜2023年8月7日(月)
    時間
    8月4日(金) 19:30 8月5日(土) 13:00★◇/18:00 8月6日(日) 13:00★☆/18:00 8月7日(月) 13:00 ※受付開始・開場は開演の30分前 ★アフタートークあり ☆託児サービスあり(要予約) ◇鑑賞マナーハードル低めの回
  • 料金など
    〈全席自由〉 サポートチケット 8,000円 一般 4,000円 29歳以下 3,500円(要証明) 18歳以下 2,000円(要証明) 障害者割引 2,000円 アルテ友の会 3,600円 当日券 +500円
    お問い合わせ
    03-6825-1223 平日10:00〜17:00 info@precog-jp.net
    会場

    吉祥寺シアター

    〒180-0004 東京都武蔵野市吉祥寺本町1丁目33-22

  • 出演
    安藤真理 徐秋成 ティナ・ロズネル ネス・ロケ ロバート・ツェツシェ 米川幸リオン
  • 主催
    一般社団法人チェルフィッチュ
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