静謐な空気感が魅力的なチェコ在住の絵本作家、出久根育(でくね いく)さん。約200点の作品でたどる大規模個展が開催@吉祥寺美術館

絵本作家として活動されているチェコ在住の出久根育さん。初期作品を含むデビューから30年間の足跡を、約200点の作品でたどる展示「出久根育展 チェコからの風 静寂のあと、光のあさ」が武蔵野市立吉祥寺美術館で2024年3月3日(日)まで開催しています。本展のために描かれたメインビジュアル《わたしはしっているの》をはじめ、貴重な絵本原画を間近で見ることができます。週きち編集部も本展へうかがってきました!

出久根育(でくね いく)プロフィール
東京都生まれ。1992年、武蔵野美術大学卒業。1994年、最初の絵本『おふろ』を発表。1998年、ボローニャ国際絵本原画展入選。2003年、グリム童話『あめふらし』(パロル舎 2001年/偕成社再刊行 2013年)でブラチスラバ世界絵本原画展グランプリ受賞。そのほかにも第11回日本絵本賞大賞や、第58回産経児童出版文化賞ニッポン放送賞受賞。2022年にはチェコの西ボヘミア大学のシンポジウムにてイジー・トルンカ賞受賞。2002年よりプラハ在住。

民族衣装を着た人々やプラハの街並みのスケッチを展示! 見ているだけでチェコに行った気分!

本展の入り口に入ると目に飛び込んでくるのが、スケッチなどが並べられたカラフルな展示台。台にはまわりを囲むように、チェコの昔ながらの衣装を着た人々などが描かれています。展示台には、チェコのお祭りに参加する人々のようすや、チェコの首都「プラハ」の旧市街の街並みを描いたスケッチなどが展示。克明に描かれたスケッチを見ているだけで、まるでチェコに行った気分! 衣装のデザインの中にも、出久根さんの絵本のアイデアを垣間見ることができます。こちらの入り口スペースは、撮影可となっていますよ!

チェコのお祭りや街並みのスケッチたちはどれも絵本の世界のよう! 丁寧に描かれた衣装のデザインはじっくり見てしまいます(写真=編集部撮影)

また、ボックス型の展示台の中には、かわいらしい猫のオーナメントやチェコの民族衣装を身にまとった紙人形も! こちらは、出久根さんが制作の合間に描かれたもの。今回、本展に合わせて出久根さん本人によるワークショップとして「親子でチェコの紙遊び」も1月に開催されました。

出久根さん作の紙のお人形。ラフスケッチから生まれた手遊びの中にも、出久根ワールドがぎゅっとつまっています(写真=編集部撮影)

猫好きの方にもおすすめしたい! ラフスケッチも多数展示!『ぼくのサビンカ』

さまざなラフスケッチを見ることができます。猫ならではの独特なポーズってたくさんありますよね!

出久根さんが絵のほかに訳も手掛けた『ぼくのサビンカ』(文:ラデック・マリ―/訳:出久根育/ブロンズ新社/2023年)。猫と少年の幸せな一日を描いたお話です。本展では『ぼくのサビンカ』の絵本原画やラフスケッチも多数展示されています。『ぼくのサビンカ』のチェコ語版のタイトル「kocourkův den」は、直訳すると「猫の一日」。日本での刊行では、読者が馴染みやすいように出久根さんの愛猫「サビンカ」の名前がタイトルに付けられました。出久根さんが実際にプラハの暮らしの中で出会った猫たちも、絵本内に実名で登場しています。 本展では、そんな実際の猫の写真と絵本の中の猫とを見比べられるパネルも展示。猫好きはもちろんそうでない方にもおすすめしたいコーナーです。ラフスケッチでは絵本と異なる表紙のデザインや、未採用の場面も展示されており、見ごたえたっぷりです。

さまざなポーズで描かれた12匹の猫たち。どのこも全員かわいいです…!

出久根育さんの新作創作絵本『わたしのおにんぎょうさん』『こどもべやのよる』の原画を初公開!

2023年に2冊の創作絵本『わたしのおにんぎょうさん』(作:でくねいく/偕成社/2023年)と『こどもべやのよる』(文:出久根育/岩波書店/2024年2月9日刊行)を手がけた出久根さん。ひとりで絵も文章も手掛けた“創作絵本”は約30年ぶり。2作品の原画は本展が初公開となります。『わたしのおにんぎょうさん』は、チェコでの生活が長くなり離れて暮らす両親に喜んでもらいたい、という思いから生まれた実話を元にした物語。主人公のおかっぱの少女は、出久根さん本人がモデルです。日本に育ち、チェコで暮らす出久根さんだからこそ描ける独自の空気感が絵本の中に広がっています。『こどもべやのよる』も自身の想い出が元になった物語。四姉妹で過ごした“こどもべや”が舞台です。現実と空想が織りなす優しい世界は、出久根さんの新境地を示しているといえるでしょう。

週刊きちじょうじの読者のみなさんへ。出久根育さんご本人からメッセージ

週刊きちじょうじで本展の取材をお願いしたところ、なんと出久根育さんご本人とお話する機会をいただきました。週刊きちじょうじの読者のみなさんへのメッセージをどうぞ!

出久根育さんメッセージ
今までありがたいことに仕事をたくさんしてきました。気がついたらとても多くの作品を、いろんな人とのつながりの中でつくることができました。私はとても幸せだなと本当に嬉しく感じます。そういった喜びみたいなものが、作品を通してみなさんに伝えられたらと願っています。

本展「出久根育展 チェコからの風 静寂のあと、光のあさ」は、約200点の作品を通して開催される大規模な個展です。初期の銅版画から、デビュー作『おふろ』(学研 1996年/2007年に復刻版を出版)の原画、最新作に至るまで、今までの出久根さんの足跡をたどることができますよ!

テンペラと油彩を⽤いて描かれた絵画や、絵本未採用原画なども展示

本展では、絵本で採用されなかった原画も特別に展示されています。『わたしのおにんぎょうさん』のあるワンシーンでは、採用されたものと未採用の原画が並べられており、どういう部分が変わったのか見てみるのも興味深いポイントです。 他にもテンペラと油彩を⽤いて描かれた『マーシャと白い鳥』(再話:ミハイル・ブラートフ/文:出久根育/偕成社/2005年)も見どころのひとつ。丁寧に色を重ねて描かれたりんごの“赤”は迫力満点です。 ちいさな紙人形から迫力のある油彩画、そして本展初公開の原画など、出久根育ワールドを吉祥寺でぜひ体験してみてはいかがでしょうか。

武蔵野市内の3つの図書館で、出久根育さんの絵本特集も開催

本展「出久根育展 チェコからの風 静寂のあと、光のあさ」に合わせて、武蔵野市内の図書館3館にて出久根育さんの絵本特集も開催中。たくさん出久根さんの絵本を読みたい!という方はぜひ各図書館の特設コーナーもご利用ください。

中央図書館 1月15日(月)~3月3日(日)
武蔵野プレイス 1月20日(土)~3月3日(日)
吉祥寺図書館 1月20日(土)~3月3日(日)

出久根育展 チェコからの風 静寂のあと、光のあさ

本展では、約200点の作品を通して、デビューから30年間、真摯に描き続けた作家の新しい“現在”に至るその魅力を辿ります。

  • 開催日
    2024年1月20日(土)~3月3日(日) ※休館日1月31日(水)/2月21日(水)・28日(水)
    時間
    10:00~19:30
  • 料金など
    入館料300円(中高生100円、小学生以下・65歳以上・障がい者の方は無料)
    会場

    武蔵野市立吉祥寺美術館

    〒180-0004 東京都武蔵野市吉祥寺本町1-8−16 コピス吉祥寺A館 7F

  • 主催
    武蔵野市立吉祥寺美術館〈(公財)武蔵野文化生涯学習事業団〉 協力:ちひろ美術館/岩波書店/偕成社/Gakken/西村書店/のら書店/福音館書店/フレーベル館/ブロンズ新社/理論社 後援:チェコセンター東京